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社説(4月17日)中東情勢緊迫化 報復の連鎖食い止めよ

 イランが敵対するイスラエル本土に対し、300を超える弾道ミサイルや巡航ミサイル、自爆型無人機を撃ち込んだ。イスラエル軍は99%を迎撃したと発表したが、空軍基地で小規模な被害があったほか、少女1人が負傷した。
 イランがイスラエルを直接攻撃するのは初めて。1日にシリアのイラン大使館が空爆され、革命防衛隊幹部を殺害されたことへの報復としている。空爆について、イスラエルは肯定も否定もしていないが、イスラエルの行為に間違いないとみられている。
 イスラエルを宿敵とみなすイランは、これまでもレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを使ってイスラエルに「代理戦争」を仕掛けてきた。ところが、イスラエルは大使館攻撃というタブーを犯し、イランも直接攻撃で応じ、互いに一線を越えてしまった。
 焦点は、直接攻撃を受けたイスラエルがどのような報復攻撃に出るかだ。報復の連鎖がエスカレートすれば中東全体はもちろん、イスラエルを支援する米国も巻き込まれる次元の異なる戦争に発展する危険がある。国際社会は双方に自制を求め、連鎖の拡大を食い止めなければならない。
 イランもイスラエルも全面戦争は望んでいない。イランはミサイルや無人機がイスラエルに届く前に攻撃開始を発表して迎撃できる時間を与えた。これ以上の攻撃もないとしている。米国がただちにイランへの反撃に不参加を表明したのは、事態を最小限にとどめたいイランの意図をくみ取ったからだろう。
 大使館を空爆されたイランは報復しなければ国内の保守強硬派に対してメンツが保てず、攻撃は不可避だったといわれる。とはいえ、300を超える一斉攻撃はあまりにも大規模だ。幸い死者はなかったが、民間施設や民間人に大きな被害が出れば制御不能な事態に陥る恐れもあった。
 攻撃されたイスラエルも反撃しないと国民の突き上げを受ける。しかも昨年10月にイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を受けた責任を問われているネタニヤフ首相は、政権維持へ危機的状況を継続させる必要があるとされている。
 体面や保身のために血が流されるのは外部からは愚行にしか見えないが、背景にあるのは拭い難い相手への憎悪だろう。国際社会は繰り返し冷静さを求めていくしかない。日本政府は欧米とは異なり、イラン非難を避けている。独自の立場で対話と緊張緩和を強く訴えてもらいたい。
 パレスチナ自治区ガザで戦闘を続けるイスラエルは、多数の住民が避難するガザ最南部ラファへの侵攻準備も進めている。多くの犠牲者が想定されるラファ侵攻も思いとどまるよう圧力をかけたい。

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