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大自在(4月13日)散り際

 川勝平太知事は辞職届を提出する直前、報道陣の問い掛けに戦国武将明智光秀の娘である細川ガラシャの辞世の句「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」を詠んだ。ガラシャは父が起こした本能寺の変を機に人生が一変し、自ら死を選んだ。
 この句は「花も人も散り時を心得てこそ美しい」と解され、これまでも政治家たちが節目で使っている。小泉純一郎さんは首相当時、既に退任表明していた時に開いた「桜を見る会」で、「私も引き際、散り際を大事にして…」とこの句を紹介しながらあいさつした。
 「自民党をぶっ壊す」と強烈なメッセージを発信し、エルビス・プレスリーに傾倒。高い支持率を誇った人気ぶりには、国民の「劇的政治」への期待感も表れていた。
 細川護熙さんは首相退任後、議員辞職の声明に細川家ゆかりであるガラシャのこの句を添えた。政界引退後は陶芸家や茶人として活動していたが、16年近い空白を経て76歳で東京都知事選に出馬。「原発即時ゼロ」を前面に掲げ、小泉さんとも連携した。
 川勝知事が句を発したと聞き、真っ先に思い出したのは、東京勤務時代に取材した日本記者クラブでの会見。富士山が世界文化遺産に登録された直後で、川勝知事は万葉歌人、山部赤人の長歌をよどみなく、そらんじてみせた。学者知事の得意分野だけに、持ち前のパフォーマーぶりがひときわさえていた。
 辞職届を出した10日は、前日の春の嵐で散った桜が街のあちこちで吹雪のように舞っていた。“川勝劇場”の終わりに合わせるように。

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