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社説(4月8日)子ども支援金 「負担増」の議論隠すな

 児童手当の拡充などを柱とする少子化対策関連法案が衆院で審議入りした。対策の実行には今後3年間に年最大3兆6千億円の財源が必要となるため、社会保障の歳出削減や創設する「子ども・子育て支援金」などで賄う。支援金は公的医療保険料に上乗せして徴収する。対策の実効を上げる議論を求めたい。
 焦点となる支援金の徴収で岸田文雄首相は答弁で「歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行う。国民に新たな負担を求めない」と強調した。従来から歳出改革で社会保険料の伸びを抑え、賃上げの効果を加味すれば「実質的な負担は生じない」と繰り返してきた。
 しかし、首相が「負担増」のイメージ隠しに腐心するあまり、少子化に対する首相の本気度と覚悟が伝わりにくくなっている。「負担なし」を実現する根拠を示せず強弁を続ければ、国民を欺くことにならないか。野党から「事実上の増税」や「まやかし」との批判が上がるのは当然だ。
 どうして将来に必要な負担として正面から議論しないのかを問いたい。出生数が減り少子化対策が待ったなしの課題であることは多くの国民が認識していよう。対策の実現には財源が欠かせない。丁寧に説明すれば租税対応でさえ理解されるのではないか。
 負担割合を判断する指標にするのが「社会保障の国民負担率」。歳出改革と賃上げで支援金と同額分の社会保険料の負担を軽減するという理屈のようだ。ところが、高齢化で医療保険料は増加が続き、約束する歳出改革でどれだけの削減ができるのか疑問だ。
 大企業を除けば賃上げも十分ではない印象だ。まして医療保険料は原則、事業主と従業員が折半して負担する。事業主も支援金を徴収されるため、負担増から賃上げを抑制する恐れがある。そもそも子育て政策に医療保険料を充てること自体、筋が通っていないと言わざるを得ない。
 こども家庭庁は先月末、制度が確立する2028年度で1人当たりの月平均負担額は加入する公的医療保険別に950~350円になるという試算を公表した。最も多いのは公務員の共済組合、少ないのが75歳以上の後期高齢者医療制度。ところが、負担は所得によって異なり、もっと高額になるという指摘もある。世帯ごとのモデルケースを示していないので家計への影響額もつかみにくい。
 年金生活に入った高齢者に多くの負担を求めることができない以上、支援金負担の中心が現役世代になるのはやむを得ない。支えるべき子育て世帯の可処分所得を減らしてしまうという矛盾をどう解決するか。国会審議では真摯[しんし]に取り組んでもらいたい。

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