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【DV男性被害】「男らしさ」縛られ潜在化 被害急増、理解不足に警鐘

 女性被害者への支援が一定程度進んできたドメスティックバイオレンス(DV)は近年、男性による被害相談が急増している。窓口の対応時間が短い上、相談員の理解が足りず適切な対応を受けられない例も。専門家は「男は強くなければならないという価値観から相談できない人がおり、相談者数は氷山の一角だ」として、社会の意識刷新が必要だと警鐘を鳴らす。

DV防止法改正を巡る変化
DV防止法改正を巡る変化

 DVやストーカー問題に取り組むNPO法人「女性・人権支援センター ステップ」(横浜市)は数年前に男性被害者からの相談が相次いだことから、2022年に男性専用の被害者支援プログラムを設置した。栗原加代美理事長(77)は「たたかれたり、物を投げられたり、罵倒されたり、女性同様の被害に遭っている」と明かす。
 京都橘大の濱田智崇准教授(50)は、約30年前から男性のための悩み相談を受け付けている。稼ぎが少ないことや家事ができないことを妻に責められるケースが多く、男性自身も負い目を感じて精神的支配を受けてしまうという。
 被害者の多くが「強くなければ」と思い、自身を被害者と認識せず、相談をためらうとして「相談しやすいよう、啓発活動や窓口拡充をし、支援体制を整える必要がある」と話す。
 濱田准教授によると、男性用相談窓口は月に1回、2時間程度というところが多く、全く足りない状況だという。女性支援を前提とした窓口は、相談員に男性相談の技術がなく、適切に対応できないこともある。
 シェルターがないため、車中泊やネットカフェでしのぐ被害者も多い。元妻から暴力や暴言を受けていた東京都北区の島村和宏さん(48)は「シェルターに入り、元妻とのやりとりの仲介をしてほしかった」と振り返る。
 DV施策は、売春防止法や生活保護法などに基づく既存の福祉施策が活用されてきた。4月以降は新たに施行される女性支援新法が具体的な施策を規定し、女性被害者支援は大きく進む。一方、DV防止法は被害者について性別による区別をしていないにもかかわらず、男性被害者を想定した個別施策はほぼ実施されていない。
 4月施行の改正DV防止法では、身体的DVだけでなく、言葉や態度で追い詰める精神的DVも保護命令の対象となる。自身の被害を認識する男性の増加が予想されるが、相談窓口や男性用シェルターは十分に整備されておらず、対応は追い付いていないのが実情だ。
 神奈川大の井上匡子教授(法哲学)はDVの被害者・加害者像を捉え直す必要があると指摘。「多様なニーズに応えるため、都道府県などの基本計画の見直しや相談員の研修をすることが重要。男性被害者支援も他の施策などを応用することも含めて組み立て直すべきではないか」と語った。

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