あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 編集部セレクト

社説(1月18日)新型コロナ3年 なぜ命を救えないのか

 日本国内で新型コロナウイルスの感染者が確認されて3年が経過した。初確認は中国武漢市に滞在歴がある神奈川県居住の30代の中国人男性だった。国内の累積感染者数は3千万人を超えた。複数回の発症者が含まれるが、おおむね国民の4人に1人が感染を経験したことになる。
 変異株による感染拡大の懸念は根強く、感染の終息には至っていない。だが、世界のコロナ対応は行動制限のない「平時」への移行が加速している。
 日本政府は感染症法でコロナ陽性者を隔離治療する原則を維持する。対応施設は限られるため感染の急拡大で医療提供体制が逼迫[ひっぱく]するのは必然だ。感染流行の「第8波」でも発熱外来に患者が殺到し、救急搬送の困難化など重症化リスクのある患者対応にも影響している。死者数は過去最多水準となっており、医療逼迫防止対策強化宣言を発令した川勝平太知事は「救える命が救えない状況が差し迫っている」と訴えた。

 静岡県内の直近の年代別感染状況は、20代の感染者が最も多く17%で、30代、40代が各15%と続く。年明けに全年代で感染者が急増し、おおむね各年代でまんべんなく発症者が出現している。
 一方、年代別の死者数(昨年12月1~31日)は傾向が大きく異なる。20代以下の死者はおらず、年代別感染者数で計12%となっている70代以上が全体の93%を占める。亡くなった人のうち基礎疾患があった人は82%。最多は高血圧・心血管疾患で56%。糖尿病、悪性腫瘍、慢性腎臓病が続いた。
 患者が押し寄せるコロナ対応病院は多忙を極め、県内で救急搬送が滞る事案は昨年12月下旬から急増している。年末年始の2週間は各週100件を超えた。コロナ感染者の命を救うための政策が、コロナ患者であるか否かにかかわらず「命が救えない」懸念を招いている事態は、制度の矛盾を露呈している。
 政府は重症化リスクの低い自宅療養の陽性者について、無症状者と症状軽快から24時間経過した患者の必要最低限の外出を認めている。また、コロナ感染で得られる抗体保有率の調査によれば、自覚しないまま感染を経たとみられる人がいる。
 つまり、感染リスクに気を配っている人であっても、その周囲に一定の確率で陽性者が存在する。「救える命を救う」ためには初診を担う地域の診療所の間口を広げる必要がある。コロナ対応こそ、症状に応じて診療を病院にバトンタッチする病診連携が重要だ。この仕組みの機能不全は病院を一層多忙化させ、高度治療機能は損なわれる。
 政府は新型コロナを季節性インフルエンザと同様の分類に移行させる方針だが、作業を躊躇[ちゅうちょ]してはならない。

 国民がコロナ禍に見舞われた3年で、多くの業種が厳しい経営環境に置かれ、仕事を失った人もいる。暮らしや社会経済に及んだ悪影響は計り知れない。
 静岡県は第3次自殺総合対策行動計画(2023~27年度)で、コロナ禍が孤独や孤立を招いていると指摘した。女性の自殺者は50代までの全年代で増加し、政府は要因となるさまざまな問題がコロナ禍で深刻化したと分析する。看過できない事態だ。
 新型コロナウイルスは医学的解明が進み、軽症者にも使用できる国産の治療薬が緊急承認された。科学的観点でワクチン接種は有効な対策だが否定的考えの人もいる。ウイルスに対し同じような考え方をする人は共感し合い、異なる行動を取る人を激しく批判する社会の摩擦を懸念する声がある。コロナ対応の政府施策が矛盾を抱えたまま放置され、不安が国民を覆うなら、社会の分断を招くだろう。
 政府は幅広い観点で政策を精査し、国民の命と健康を守る医療態勢の再構築に努めるべきだ。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

編集部セレクトの記事一覧

他の追っかけを読む