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復興途上、漁業者の思い 魚価回復も逆戻り懸念【処理水の行方 福島第一原発の今㊦】

 東京電力福島第1原発の北約5キロにある福島県浪江町の請戸漁港。早朝に帰港した漁船から、50センチを超える大物のヒラメが続々と水揚げされた。「常磐もの」と呼ばれ、東日本大震災前は東京・築地市場などでも高値が付いていた福島産の魚。競りが始まると、品定めする仲買人で活気に満ちた。

処理水の海洋放出による風評被害を懸念する立谷寛治組合長=5月中旬、福島県相馬市の相馬双葉漁協
処理水の海洋放出による風評被害を懸念する立谷寛治組合長=5月中旬、福島県相馬市の相馬双葉漁協
上質のヒラメが水揚げされ、競りで品定めする仲買人ら=5月中旬、福島県浪江町の請戸漁港
上質のヒラメが水揚げされ、競りで品定めする仲買人ら=5月中旬、福島県浪江町の請戸漁港
処理水の海洋放出による風評被害を懸念する立谷寛治組合長=5月中旬、福島県相馬市の相馬双葉漁協
上質のヒラメが水揚げされ、競りで品定めする仲買人ら=5月中旬、福島県浪江町の請戸漁港

 同町では2017年3月、沿岸部など一部の避難指示が解除された。津波で全壊した同漁港は20年4月に再建し、念願だった競りが9年ぶりに復活した。
 「福島の魚は放射性物質検査などで少しずつ風評被害を払しょくし、やっとヒラメの単価が全国平均を超えるまで回復した。また風評被害で逆戻りするのは困る」。千葉県などで5年間の避難生活に耐え、同町で事業を再開した魚卸売業「柴栄水産」の柴強社長(56)は、原発処理水の海洋放出に懸念を抱く。
 処理水に含まれる放射性物質トリチウムは雨水や河川水など自然界にも存在し、体内に入っても排出される。東京電力は国の安全基準に対し40分の1未満の濃度に海水で希釈した上での放出を想定するが、既に約130万トンたまった処理水の放出期間は数十年に及ぶため、安全性には厳しい目が向けられる。
 国は2021年度補正予算に300億円を計上し、風評被害対策の基金を設ける方針。水産物の価格が下がった場合の買い取りなども検討している。それでも全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は4月、海洋放出に「いささかも反対という立場に変わりはない」と明言。海洋放出の本工事着手には県と地元2町の事前了解が必要だが、ハードルは依然高い。政府と東電には丁寧な説明が求められる。
 相馬双葉漁協(相馬市)の立谷寛治組合長(70)は「国は海洋放出ありきで準備を進めている」と不満を漏らす。その上で「震災後、多くの若い人が新規で漁業に就いた。魚を取って生活する人々を支えてほしい」と漁業継続に支援を訴えた。
 まだ復興途上の同漁港近くにポツンと立つ柴栄水産の直売所には、近隣市からも多くの客が訪れる。「少しでも地元の魚を食べてほしくて直売所を併設した。浪江から水産業をなくしちゃいけない」。柴社長は言葉をかみしめるようにして語った。

 ■静岡県漁連も福島の放出反対
 放射性物質トリチウムは国内外の原発から液体、気体で環境中に放出されている。中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)でも2011年の稼働停止前に生成されたトリチウムが現在も燃料プールや機器で使う水の中に残存している。濃度や量が法令などの基準を超えないよう測定した上で放出し、データは県や周辺11市町などに報告している。
 福島第1原発の処理水放出については全国漁業協同組合連合会の見解に合わせ、静岡県漁連も反対している。県漁連の青山一弘参事は「浜岡原発からの放出は長期的な環境データの蓄積があり安全性が確認されている。福島第1原発の処理水は事故に関連するもので前例がなく、データが不十分」と説明している。
 

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