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【追想メモリアル】時代の人を撮り続ける 写真家/篠山紀信さん(1月4日死去、83歳)

 時代を象徴する人物や物事の写真を撮り続け、多くの雑誌の表紙や巻頭を飾り、「激写」「ヘアヌード」といった流行語を生んだ。被写体となった本人も気づいていない魅力を引き出し、写真の持つ力を見せつけた。

人物や物事の一番良いところを瞬時に切り取った篠山紀信さん。朗らかでフレンドリーな人柄と笑顔は被写体となった人たちから愛された=1999年5月
人物や物事の一番良いところを瞬時に切り取った篠山紀信さん。朗らかでフレンドリーな人柄と笑顔は被写体となった人たちから愛された=1999年5月

 広告制作会社勤務を経て1968年に独立。初期は、月面をイメージし米カリフォルニア州デスバレーの荒涼とした大地でヌードを撮るなど、「虚構の美」を作り上げる造形的な作品で注目された。リオのカーニバルで踊る群衆の波に身を任せた撮影の体験が転機となり「流れに逆らわない」作風へと転じた。インタビューで自身の写真術について「力業でねじ伏せるのではなく、受容的な気持ちになり、現実をよく見て、その『すごさ』を頂く」と語っていた。写真は「時代からの頂き物」だった。
 山口百恵さんらさまざまなスターの決定的瞬間を収めた「激写」、社会現象になった宮沢りえさんのヌード写真集「Santa Fe」、樋口可南子さんの「ヘアヌード」-。話題を呼んだこれらの作品も全て、被写体の力や撮影現場で感じたものを大切にする姿勢が生み出したものだった。
 時代を切り取ることを誰よりも強く意識し、東日本大震災でも現地でポートレート群を残した。原板が週刊誌大のフィルム、細密描写できる大型カメラを使って、撮影を了解してくれた被災者の心情をしっかりと受け止めた。「かける言葉も見つからず、『カメラを見てください』と言うのがやっとでした」。写真を送った相手の礼状には「私はこの時、こんな悲しそうな顔をしていたのですね」と書かれていた。
 写した時代ばかりでなく、見る者の自分史までよみがえらせる。時代と真摯(しんし)に向き合った篠山さんが残した作品には、そんな力が宿っている。

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