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結婚するため日本を出るしかなかった 浜松出身・寛さん コロナ禍、パートナー入国できず決断 同性婚日本でも導入を

 同性婚が認められず、日本を離れる決断をした男性がいる。英国で現地男性と結婚した浜松市出身の寛さん(30)=名前のみ公表=。欧米を中心に同性婚を導入する国は増えているが、日本での法制化の議論は道半ばだ。近年の同性婚訴訟などを踏まえ、寛さんは「制度がない現在の状態は明らかに不平等。将来設計や自己肯定感に影響が出ている現実を多くの人に気付いてほしい」と語り、平等な社会の実現を切望する。

英国で同性婚した寛さん(左)とトムさん=2021年9月、英国ロンドン
英国で同性婚した寛さん(左)とトムさん=2021年9月、英国ロンドン

 「2人の将来を考えると日本を出る選択肢しかなかった」。英国留学中に出会い、遠距離恋愛を続けてきた同性パートナーのトムさん(28)=仮名=と1年半以上会えなかった。新型コロナの影響で、英国から日本に入国が許されたのは国際結婚した異性カップルなど法的に認められた家族に限られた。「一生会えないのでは」と不安が募り、2021年9月に英国でトムさんとの同性結婚に踏み切った。
 男性のことを好きだと気付いたのは中学3年の時。最初は、性的指向と性自認のどちらで悩んでいるか分からなかった。同性に引かれるのが変だと思い込んで自己嫌悪の日々を送っていたが、高校2年で限界が訪れた。
 学校では「オカマ」「女々しいな」などと教員が生徒をののしった。テレビではオネエタレントが笑いの対象だった。頭の整理が付かず、性別を意識せざるを得ない「プール開き」を前に中退。通信制の高校を経て、東京の大学に進学した。
 自分をゲイと受け入れたのは21歳のカナダ留学時。同性カップルが手をつないだり子連れで歩いたり、社会に溶け込んでいる姿を目の当たりにした。「これから、自分らしく生きよう」と決心した。
 2人は英国で結婚しても日本では他人として扱われる。寛さんは「将来、トムと一緒に大好きな日本でも結婚を認められたい」と願う。英国ロンドンでの結婚式への出席がかなわなかった浜松の両親に「晴れて感謝を伝えたい」と話す。

改憲せずとも同性婚法制化は可能
 同性婚は2001年のオランダを振り出しに欧米などで広がり、22年11月現在で33カ国・地域が認めている。婚姻とほぼ同等の「登録パートナーシップ」制度導入は31カ国・地域に上る。日本はどちらにも含まれない。アジアで初めて同性婚を認めた台湾は17年の裁判所の違憲判断を受けて19年に法制化した。
 日本では同性カップルに相続権や所得税の配偶者控除、共同親権、配偶者ビザ取得など法律婚で得られる権利を認めていない。
 同性婚を認めない民法などの規定は憲法違反として国を相手取った「結婚の自由をすべての人に訴訟」の原告弁護団の一人、水谷陽子弁護士(名古屋市)は「政府や司法の解釈でも、憲法を改正せずとも同性婚の法制化は可能」と指摘する。札幌地裁が21年に国が同性婚を認めないのは法の下の平等を定めた憲法14条に反すると判断したことなどを踏まえ、「立法に向けて国は動くべき」と強調する。

長年の教育と笑う空気 無意識の偏見に気づく必要
 静岡大の松尾由希子准教授(教育学)によると、小学校から高校の学習指導要領には異性愛以外のセクシュアリティーを教える規定はない。中、高の体育や保健の授業は慣習的に性別で分け、教員は性的少数者を想定せずに「シスジェンダー(出生時の性と性自認の一致)かつ異性愛が正しい存在」と無意識のうちに考えてきた。
 松尾准教授は「長年の教育システムと性的少数者を笑うような空気は無意識の偏見を生み出し、当事者児童生徒の生きづらさを作ってきた。教員は性の多様性を学ぶとともに無意識の偏見に気付く必要がある」と語った。

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