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「記者書評」・鈴木真弥著・「カーストとは何か」 複雑に発達した人の関係性

 経済発展が続き、近年はITや映画でも注目を浴びるなど存在感を増すインド。この大国を理解するには、社会に根を下ろす身分制であるカーストを理解することが欠かせない。

「カーストとは何か」
「カーストとは何か」

 現地のフィールドワークを重ねた社会学者の手になる本書は、この「インドに重くのしかかる厄介な問題」に触れる格好の手引となるだろう。
 世界史の授業などで、バラモン(司祭)を頂点とするタテの身分制という印象が強いカースト制だが、実際には細分化された職業に結び付いたヨコの分業体制でもあり、結婚や食事など人々の生活全般を規定している。
 著者は、約2億人に上る最下層のダリトと呼ばれる「不可触民」の中で、特に賤視(せんし)されている「清掃カースト」の人々への調査を行ってきた。
 憲法はカーストによる差別の禁止を明記し、政府はダリトに対し、選挙や教育、雇用などでの積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を実施。識字率については他カーストとの差は縮まったが、雇用などでは依然格差が残る。浄・不浄の意識が強い社会で、し尿くみ取りや下水清掃などに携わる清掃カーストは今も過酷な労働を強いられ、危険にさらされているという。
 人々の差別意識は「におい」や「食」を巡ってしばしば現れる。他のカーストの人は、著者がダリトを調査していると聞き「あなた、においは耐えられるの? 大丈夫?」と尋ね、「あの人たちは(不浄とされる)豚を食べるんでしょう?」と嫌悪感を示したという。
 一方、下位カーストの調理したものは不浄だと口にしない人が珍しくない中では、共に食べることが平等や連帯意識を身体的に経験する場になる。
 カーストは「長い歴史を経て複雑に発達した人間の関係性を意味している」からこそ、「消し去ったり、逃れることができない」と著者は書く。差別や蔑視はどこから生まれるのか。その問いは私たち日本社会にも無縁ではないはずだ。(高見浩太郎・共同通信記者)
 (中公新書・990円)

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