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【柏崎刈羽原発の核燃料装填】住民軽視の批判免れない 過酷事故当事国の自覚を

 政府と東京電力が早期の再稼働を目指している柏崎刈羽原発7号機(新潟県)で核燃料の装填が始まった。約2週間で完了する見通しだ。しかし今回は、新潟県の花角英世知事が考えを明確にしていない。地元同意に先んじてプロセスが進められた点で、これまでの再稼働と大きく異なる。

新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の6号機(右)と7号機=2021年4月
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の6号機(右)と7号機=2021年4月
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発7号機の建屋内部。右は核燃料プール、左は原子炉=2023年11月
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発7号機の建屋内部。右は核燃料プール、左は原子炉=2023年11月
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の6号機(右)と7号機=2021年4月
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発7号機の建屋内部。右は核燃料プール、左は原子炉=2023年11月

 政府・東電は、燃料装填はあくまで設備の健全性を確認するステップに過ぎず、地元同意が再稼働の前提であることに変わりないと言う。しかし燃料装填後は制御棒を引き抜きさえすれば臨界に達する。再稼働前の最終工程と言っていい。
 本来、とっくに取っているべき地元同意を後回しにして外堀を埋めるような行動は住民軽視の批判を免れまい。事は原発だ。しかも日本は過酷事故を起こした当事国だ。自らの行動に厳格であるべきではないのか。
 政府・東電は経済活動が集中する首都圏に電力を供給する柏崎刈羽の再稼働を急いできた。さらに中東情勢の悪化で火力発電の燃料コストが増加する懸念がある。エネルギー基本計画の改定作業が本格化する中、政府としては原発の稼働実績を増やし電源構成議論に臨みたいところだろう。
 岸田政権は基本計画の改定議論を待たず、早々に原発回帰にかじを切った。60年超の運転を可能にし、次世代炉の建設方針も打ち出すなど、歴代政権が踏みとどまってきた一線を突破した。
 だが原発の積極活用については国民合意ができているとは言いがたい。東電福島第1原発事故の記憶に加え、柏崎刈羽では原子力規制委員会の審査合格後、IDカードの不正利用や侵入検知設備の故障が相次いで発覚。いったん運転禁止命令が出された。さらに電力業界では、大規模なカルテルや顧客情報の不正閲覧など不祥事も起きた。再稼働を進める上で国民の信頼を裏切れないはずなのに、業界は自ら墓穴を掘ってきた。
 能登半島地震では石川県志賀町で最大震度7を記録した。町内には北陸電力志賀原発がある。今回、重大な事故は回避されたものの、道路の大規模な損壊や家屋の倒壊を受け、事故時に退避が本当に可能なのか、全国の原発立地地域の住民は、再び大きな不安の中にある。被災地の状況を見て、眼前の危機を思わない立地地域の住民はいないはずだ。
 政府・東電は、柏崎刈羽の再稼働を真夏の電力需要期に間に合わせたいのが本音だろう。どこかのタイミングで岸田文雄首相が登場し、知事が同意する政治ショーが目に浮かぶ。しかし事故時の避難対策の再検証や機器の点検を考えれば、一定の時間がかかるはずだ。需要期に無理やり間に合わそうなどと考えず、順序を踏んで丁寧に進めなければならない。規制委の独立性も問われている。
 低支持率の岸田首相の下で国の根幹に関わる重要政策が次々と大転換している。しかし仕事が早いことと拙速は違う。首相は将来世代に責任を負えるのか。問題の重さに比して政治判断が軽すぎる。(共同通信編集委員 宮野健男)

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