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「現在地」演劇評論家の小玉祥子さん 「私が読みたい」が原動力

 日本の演劇を真摯に見つめ、舞台の持つ魅力を新聞や著書で伝えてきた演劇評論家の小玉祥子さん。その丹念な取材と確かな鑑賞眼で、役者や制作陣、演劇ファンたちから厚く信頼されている。

「こちらから尋ねたことに、全てお答えいただいた尾上菊五郎さんには感謝しかない」と話す小玉祥子さん
「こちらから尋ねたことに、全てお答えいただいた尾上菊五郎さんには感謝しかない」と話す小玉祥子さん

 取材の原動力は「純粋に『私が読みたい』と思うものをテーマに選ぶこと」と語る。新著「艶やかに 尾上菊五郎 聞き書き」(毎日新聞出版)では、人間国宝の歌舞伎俳優尾上菊五郎さんに計30時間超の取材を重ね、粋な役者人生を活写した。
 これまで菊五郎さんは聞き書きの依頼を断っており、一代記といえる本がなかった。「『読んでみたい』の一心で、断られる覚悟でお願いした」。菊五郎さんの返答は「私の話はつまらねえよ」と一言。シャイな人柄、江戸らしい気風がにじむ洒脱な「OK」だった。
 16回にわたり稽古場で1対1の取材に臨んだ。青春を満喫した学生時代、自分を「農耕馬」に例えた地道な稽古、先輩の教え…。菊五郎さんの語りから、潔さ、細やかな気配りを再認識したという。「繊細さ、謙虚さが芸に反映されていると実感した」。早世した盟友の初代尾上辰之助(三代目松緑を追贈)との別れの章では「一生分の涙」を流したと明かす。本書は、名優の知られざる胸中も鮮やかにつづる。
 小玉さんは取材のたび、上演記録や出来事をまとめた年表を作り、照らし合わせながら話を聞いた。深く、正確に聞き出す工夫の一つだ。「読書も古い資料を探すことも大好きなので」と笑う。
 1985年、毎日新聞社に入社し、96年から演劇担当記者に。「二代目 聞き書き 中村吉右衛門」などの著書でも知られ、昨年に退社した。「時代を彩った演劇が、その当時どのように演じられたのか。今後も取材して記録していきたいです」

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