国民性つくる「洗脳教育」 ガザ攻撃にも疑問抱かず 非戦論の在日イスラエル人
「徴兵制のイスラエルで戦争が始まると、どんなにリベラルな人でもとにかく軍を応援しようとなる」。イスラエルとイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザで昨年10月から戦闘を続けている。日本人女性と結婚し、日本に40年近く住むイスラエル人のダニー・ネフセタイさん(67)=埼玉県皆野町=は徹底した非戦論者だ。「教育によって国民性をつくるのは簡単なこと。洗脳教育のやり方だ」と語る。
イスラエル中部のリベラルな家庭に生まれたが、18歳から3年間、徴兵のため空軍に入隊することに疑問はなかった。小学校に入ると毎年、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)について学び「国を守るのは当然のことだと教え込まれた」からだ。
ユダヤ人は1948年、パレスチナの地にイスラエルを建国した。土地を追われたアラブ人は各地に離散し、パレスチナ難民と呼ばれるようになった。しかし学校では「アラブ人はイスラエル軍を恐れて逃げただけ。私たちが追い出したんじゃない」と教わった。
ハマスは昨年10月7日、イスラエルを奇襲し約1200人を殺害。イスラエル軍は報復としてガザ攻撃を始め、ガザ側の死者は3万人を超えた。国際社会からは過剰な報復だとの批判が高まっているが、大半のイスラエル人は疑問を抱かない。
「『3万人殺されたのはイスラエルが悪いからでなく、ガザ住民がハマスを選んだから』というのが政府のプロパガンダだ」。奇襲は「第2ホロコースト」とも呼ばれ、国を守るには「3万人の死者も仕方がない」と考える人も多いという。
イスラエルでは軍への信頼が厚い。国民の多くが期待するのが、ハマスのガザ地区トップのシンワール指導者殺害だ。「彼を殺したら『これで私が信じた強い軍に戻った』との気持ちになる」と説明する。
こうした考え方の根本にあるのは、イスラエルの「洗脳教育」だと語る。「『アラブ人は怖い。唯一やりたいことは私たちを殺すこと』だと0歳から刷り込まれる」。そのため今回の奇襲も「長年の抑圧に対しての抵抗ではなく『ハマスはそういう人間だからやった』と考える」とみる。
「イスラエルの学校で使う地図には、ガザとの境界線はあるが、ヨルダン川西岸との境界線は描かれていない」と話すと、1枚の地図を示した。「西岸はイスラエルだという教育だ」
その上で「今回ガザで起きたパレスチナ人の爆発は、近いうちに西岸でも起きる」と警鐘を鳴らす。「西岸に住むパレスチナの若者たちも、抑圧の中で憎しみを育てている。このままパレスチナ国家が樹立されなければ大変なことになる」(共同=山口弦二)