空白地で再出発した映画館 島根、苦境越えて2周年
14年間にわたり映画館がなかった島根県西部に、東京から移住した和田浩章さん(34)が2022年1月、小さなシアターを復活させた。厳しい経営環境に苦しみながらも町に映画館がある意義を感じている。「いろいろな作品を見てもらえたらうれしい」。2周年を迎え、地域の文化拠点を支える思いはますます深まっていく。
▽偶然の出会い
一般社団法人コミュニティシネマセンター(東京)によると、全国の映画館数は2002年の887から22年には590まで減った。全国の市町村のうち映画館が存在するのは大都市部を中心に約2割しかない。
和田さんが経営する映画館Shimane Cinema ONOZAWA(シマネ シネマ オノザワ)は益田市にある。200席の歴史を感じさせるホールで主に邦画を上映している。映画館の空白地帯が増える中、こうしたミニシアターは貴重な存在だ。
島根県は東西230キロに細長くのびる。08年に益田市に唯一残っていた「デジタルシアター益田中央」がなくなり、県西部は映画館空白地帯となる。観賞したい人は鉄道や車で時間をかけて広島県などへ足を運ぶ必要が生じた。
千葉県出身の和田さんが島根の映画館事情を知ったのは18年のこと。当時は東京のミニシアターCINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)の支配人だった。
チュプキは日本初のユニバーサルシアターとして知られ、目や耳が不自由な人のために音声ガイドと字幕が付いている。音声ガイドの台本を作る講習会にデジタルシアター益田中央の創業者の孫、神田聖らさん(36)が偶然参加していた。
▽甘くない現実
「映画文化を取り戻したい」。神田さんの思いを伝えられた和田さんの妻更沙さん(40)は益田市出身。「小さい頃、家族と一緒に『もののけ姫』や『タイタニック』を見に行った」と懐かしみ、交流が生まれた。
その後、和田さんの退職や更沙さんの妊娠が重なり、20年に益田市への転居を決意。合同会社設立やクラウドファンディングを経て、デジタルシアター益田中央があった場所に映画館を復活させた。
再開から2年。初めはマイナーな作品やドキュメンタリーを上映できたらと思っていた。経営は厳しく、和田さんは「メジャー作品に頼らないと持たない」と話す。音声ガイドの仕事を兼業し生計を立てている。
映画を見るとき、自分の心は画面に映し出された人生と対峙される。それを繊細に味わえるのが映画館で見る良さだと言う。「映画は町の文化。これからも守りたい」。澄み切った表情で決意を新たにした。