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【トランプ氏指名へ】対中抑止力回復が最優先 政権奪還なら60%高関税 元米国家安全保障会議(NSC)高官 アレクサンダー・グレイ

 米国は(ソ連が崩壊した)1991年当時のような「唯一の超大国」ではない。外交・安全保障でも優先順位を決める必要がある。筆頭は国家安全保障上の最大の脅威である中国だ。

元米国家安全保障会議(NSC)高官のアレクサンダー・グレイ氏
元米国家安全保障会議(NSC)高官のアレクサンダー・グレイ氏
第1列島線、第2列島線、第3列島線、日本、中国
第1列島線、第2列島線、第3列島線、日本、中国
元米国家安全保障会議(NSC)高官のアレクサンダー・グレイ氏
第1列島線、第2列島線、第3列島線、日本、中国

 中国は米国が衰退期にあると見ている。その認識を覆さなければ攻勢を強め、インド太平洋地域に極めて危険な安保環境が生まれる。これこそが核心的な問題なのだ。
 北京の認識を変えるには、抑止力を回復しなければならない。唯一の方法は、米国の軍事力を強化することだ。国防予算をもっと増やすことが急務となる。
 米国は国防費増額の必要性を同盟国に説いている。だが、国内総生産(GDP)に占める国防費の割合を見ると、われわれ自身も冷戦期と比べて低下している。
 米ソ対立の時代、米国の国防支出は平均してGDPの5~10%に上っていた。今は3%弱程度に落ち込んでいる。今後はもっと支出する必要がある。
 バイデン政権は過去3年間、中国の軍事力増強を許してきた。習近平政権は太平洋の島しょ国に触手を伸ばし、軍事的な足場を築くための取り組みを拡大してきた。
 今では沖縄や台湾を結ぶ「第1列島線」を超え、伊豆諸島やグアムをつなぐ「第2列島線」でも米国とせめぎ合う。将来的にはハワイからニュージーランドに至る「第3列島線」までもが草刈り場となり得る。
 太平洋地域では台湾と外交関係を持つ国も減っている。台湾海峡における軍事バランスも米国の利益に反する方向に劇的に進んだ。極めて懸念すべき状況だ。
 均衡が崩れ、抑止が破れたらどうなるか。ロシアのウクライナ侵攻を見れば一目瞭然だ。新たな侵略行為を防ぐため、米抑止力の回復が急がれるゆえんである。
 だからこそ、米大統領選の予備選が集中するスーパーチューズデーで圧勝した共和党のトランプ氏は、インド太平洋における中国との軍事バランス回復を最優先課題の一つと見なしている。
 対中貿易の仕切り直しも焦点となる。トランプ氏は大統領に返り咲いたら、中国からの輸入品に60%の高関税を課すと述べているが、本当に実行すると考えている。
 対中貿易赤字はもとより、他国への経済的威嚇や、不公正な貿易慣行を続ける中国の行動を根本的に変えようと思うなら、激しい対立も覚悟しなければならない。
 その際、中国に力を注ぐあまり、日韓の対米貿易黒字を放置するわけにはいかない。同盟国の場合、安全保障上の配慮から、ある程度の貿易赤字には目をつぶってきたが、時代は変わった。
 唯一の超大国だった頃の米国には余裕があった。同盟国にきつく当たらないことが戦略的利益につながるとの判断もあった。米国民はもはや、そうした大盤振る舞いを政治的に許容しない。
 貿易にせよ、米軍駐留経費や北大西洋条約機構(NATO)諸国の国防費にせよ、豊かで安定した国際秩序を維持したいなら、全員が公平に負担しなければならない。それが新たな時代の同盟の在り方だ。(談)
   ×   ×
 ALEXANDER・B・GRAY 1989年、米フロリダ州生まれ。トランプ前政権のホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)事務局ナンバー3の高官職を務め、インド太平洋戦略策定に関わった。現在はコンサルティング会社「アメリカン・グローバル・ストラテジーズ」の最高経営責任者(CEO)。

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