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「様変わりした町になじめない…」人が戻らない東日本大震災の被災地、揺れる住民の心 かさ上げ工事で生まれ変わった岩手県陸前高田市、若手カメラマンが訪ねた

 一部の建物を残し、無慈悲に流された家々。発災後、岩手県陸前高田市で撮られた写真には、一変した旧市街地の様子が写る。8年以上かけ、被災地最大級のかさ上げ工事で生まれ変わった町の景色は、ここで生きる人の目にどう映ったのか。(共同通信=内藤界)

海抜約10メートルにかさ上げされた高田地区中心部から望むかつての市街地。現在は空き地や畑などが広がる=2月、岩手県陸前高田市
海抜約10メートルにかさ上げされた高田地区中心部から望むかつての市街地。現在は空き地や畑などが広がる=2月、岩手県陸前高田市
2011年4月14日、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市の市街地
2011年4月14日、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市の市街地
自宅から外を見つめる臼井和賀子さん。かつて家族で暮らした自宅は津波で流され、現在は跡地に建つ災害公営住宅で独り暮らす=1月、岩手県陸前高田市の高田地区
自宅から外を見つめる臼井和賀子さん。かつて家族で暮らした自宅は津波で流され、現在は跡地に建つ災害公営住宅で独り暮らす=1月、岩手県陸前高田市の高田地区
東日本大震災から13年、岩手県陸前高田市に昇る朝日と「奇跡の一本松」=3月11日午前6時38分
東日本大震災から13年、岩手県陸前高田市に昇る朝日と「奇跡の一本松」=3月11日午前6時38分
空き地が広がる自宅跡周辺を見渡す菅野日出男さん=2月、岩手県陸前高田市の今泉地区
空き地が広がる自宅跡周辺を見渡す菅野日出男さん=2月、岩手県陸前高田市の今泉地区
防潮堤から海を望む熊谷壮徠さん=2024年1月、岩手県陸前高田市
防潮堤から海を望む熊谷壮徠さん=2024年1月、岩手県陸前高田市
東日本大震災から13年、地震発生時刻に合わせて黙とうする人たち。奥は「奇跡の一本松」=3月11日午後2時46分、岩手県陸前高田市の高田松原津波復興祈念公園
東日本大震災から13年、地震発生時刻に合わせて黙とうする人たち。奥は「奇跡の一本松」=3月11日午後2時46分、岩手県陸前高田市の高田松原津波復興祈念公園
まちづくりを支援するNPO法人理事長の三浦まり江さん=2月、岩手県陸前高田市の高田地区
まちづくりを支援するNPO法人理事長の三浦まり江さん=2月、岩手県陸前高田市の高田地区
海抜約10メートルにかさ上げされた高田地区中心部から望むかつての市街地。現在は空き地や畑などが広がる=2月、岩手県陸前高田市
2011年4月14日、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市の市街地
自宅から外を見つめる臼井和賀子さん。かつて家族で暮らした自宅は津波で流され、現在は跡地に建つ災害公営住宅で独り暮らす=1月、岩手県陸前高田市の高田地区
東日本大震災から13年、岩手県陸前高田市に昇る朝日と「奇跡の一本松」=3月11日午前6時38分
空き地が広がる自宅跡周辺を見渡す菅野日出男さん=2月、岩手県陸前高田市の今泉地区
防潮堤から海を望む熊谷壮徠さん=2024年1月、岩手県陸前高田市
東日本大震災から13年、地震発生時刻に合わせて黙とうする人たち。奥は「奇跡の一本松」=3月11日午後2時46分、岩手県陸前高田市の高田松原津波復興祈念公園
まちづくりを支援するNPO法人理事長の三浦まり江さん=2月、岩手県陸前高田市の高田地区

 ▽湧かない愛着
 中心部の高田地区を歩いた。新しい大型商業施設や飲食店、公園が隣接し、週末は多くの人でにぎわう。都市部さながらの景観は災禍を感じさせない。ここが海抜約10メートルにかさ上げされた場所とは想像もつかなかった。
 臼井和賀子(うすい・わかこ)さん(76)は津波で養父を亡くし、近くの災害公営住宅で独り暮らす。長年養父らと暮らした自宅は津波で流され、その跡地にこの公営住宅が建っている。かつて2階建てだったわが家は、7階に。窓からは空き地の中に新築の住宅がぽつぽつと並ぶ光景が広がる。
 内陸に住む息子のもとへの移住も考えたが、高齢になった今から新しい地で暮らす自信はなかった。公営住宅はスーパーや市役所も近く生活に不自由はないが、様変わりした町にまだなじめない。「失ったものが多くて愛着が湧かない。家族に家、友達…。でも、ここで生きていかないとね」
 ▽復興事業
 震災による死者・行方不明者が1800人を超える陸前高田市。岩手県の自治体最悪の被害で、約2万4千人だった人口は現在1万7千人台に落ち込んだ。
 市は防災対策として1600億円あまりを使い、被災した宅地などを再編する土地区画整理事業を進め、約300ヘクタールにわたり市街地のかさ上げや高台整備を実施。東日本大震災級の津波からまちを守るべく着工した工事は8年以上を要し、自宅跡地での再建を断念した人も多かった。
 2023年の地権者への意向調査では宅地56・4ヘクタールの6割で利用予定がなく、空き地の活用が課題になっている。
 ▽戻らぬ人
 川を越え、写真が撮影された今泉地区に向かった。道路に沿って多くの電柱が空に伸びる。その供給先は点々と立つわずかな民家だ。
 「もう誰も戻ってこないな…」。空き地が広がる自宅跡で、菅野日出男(かんの・ひでお)さん(75)がつぶやく。津波で父親を失い、自身も体調を崩して4期務めた陸前高田市議を引退。無事だった妻と母親を安心させようと、自宅は震災から1年立たずに別地区の高台に再建した。
 時折自宅跡地を訪れ、かつての町並みと今の景色を重ねるが、むなしくなるばかりだ。今後もこの土地を使う予定はない。空き地でも発生する固定資産税や草刈りが負担に感じ、手放したいと考えている。「昔は住民も多く、みんな子どもの頃から顔見知り。祭りや行事は盛り上がったんだ」
 ▽復興のつち音
 「じょいわな、じょいわな!」。1月、虎が家を回り商売繁盛などを願う伝統行事「大石虎舞」が行われた。お囃子に合わせた威勢の良い声に、住民らが笑みをこぼす。担い手の男性は「音につられていろんな人が『うちにも来てくれ!』って。うれしい悲鳴だよ」と笑う。
 虎舞を演じた一人、熊谷壮徠(くまがい・そら)さん(18)は、復興のつち音が響く中で育った。震災前より、個性ある店が増えたと感じる。この春、進学のため市外へ。専門学校で映像技術を学びながら、将来を考えるつもりだ。ここでまた暮らすか分からないが、「高田は海や星がきれいな町。いつか恋しくなる時が来るのかな」
 ▽魅力ある町へ
 新しい商店と空き地が混在する中心街の一角で、町づくり支援に取り組むNPO法人「陸前高田まちづくり協働センター」を訪ねた。理事長を務める三浦まり江(みうら・まりえ)さん(40)は西部の長部地区の自宅が流され、隣接する宮城県気仙沼市へ家族で避難。県をまたいで陸前高田に通い、活動を続ける。
 震災直後、津波をかぶった自宅の片付けなどで陸前高田に戻った時、知人が被災者でありながらも、避難所で支援活動していたのを目にしたのがきっかけ。「自分は早々に市外に避難して…。何をのうのうと生きているんだろう」
 活動は市内のNPO法人の支援が中心。町の発展には「地元住民が魅力を再認識することが欠かせない」と考え、昨年には住民向けに市の魅力を科目ごとにまとめた「たかたの教科書」を制作した。「復興やまちづくりはまだ道半ば。10年後にも花が咲いてくれればと願い、活動しています」
 復興が進む一方、失われた町や暮らしの面影。戸惑いながらも前に進む人たちと、変化を見つめたい。

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