【肥薩線】残る難題、住民利用促進 復旧協議、過疎の各地で
ＪＲ九州は、２０２０年７月の豪雨で被災し一部区間で運休が続く肥薩線の鉄道復旧にかじを切った。ＪＲ東日本の津軽線（青森県）やＪＲ西日本の美祢線（山口県）など災害による運休、その後の存廃協議は過疎化が進む各地で相次ぐ。赤字路線の再開に光が差し、熊本県は胸をなで下ろすが、収支改善や沿線住民の利用促進といった難題は残る。
▽年寄りの村
人けがない熊本県球磨村の渡駅。駅の電柱は倒れて、レールは傾いていた。運転停止から間もなく４年を迎える３月中旬。周囲は当時から時間が止まったように静けさが覆っていた。
隣接する人吉市の観光協会の鳥越英夫会長は「人吉駅ににぎわいを取り戻したい」と話す。列車が止まってからもホームで球磨焼酎の催しを開くなど復旧を訴えてきた。
ただ、住民感情は複雑だ。かつて肥薩線で通勤した球磨村の８０代男性は「復活しない方が良い」と断言する。村民の大半は車を所持しており「年寄りの村。電車に乗りきらん」とつぶやく。村によると、４月時点の人口は２７３５人で被災前から約２割減った。過疎化は止まらない。
▽不可避な合理化
肥薩線の八代―人吉区間は豪雨前、１キロ当たり１日平均乗客数（輸送密度）が４９１人。年６億円の営業赤字だった。ＪＲ九州は合理化は不可避として、鉄路復旧に首を縦に振らなかった。
同社は２３年夏、１７年の九州北部の豪雨で被災した福岡、大分両県を結ぶ日田彦山線の一部区間をバス高速輸送システム（ＢＲＴ）で復旧。自然災害に見舞われていない鹿児島県の指宿枕崎線を巡り、同社は２４年に入り、赤字区間である指宿―枕崎の在り方の協議を自治体に申し入れた。
▽地域存続
一方、熊本県は「災害を理由とした廃線は許されない」（幹部）と譲らなかった。古宮洋二社長は３月中旬、県の立場を最終確認するため、蒲島郁夫知事と県庁でひそかに会談。その後の取締役会で「県の日常使いの案次第」との条件付きで鉄路復旧の方針で社内をまとめた。
田嶋徹副知事は４月３日、「復旧できなければ、地域の存続はあり得ない」と安堵した。国は、現時点で２３５億円に上る肥薩線の復旧費の大半を河川・道路工事との連携で肩代わりし、県を後押しする。
課題は残る。県の復興案は、４０年の経済波及効果が年４２８億円に上ると青写真を描くが、同時に年５億６千万円の赤字も想定する。県が「マイレール意識」として示したのは、公務員の積極的な乗車により１日当たりの利用客が５０人増えるとの皮算用だ。
ＪＲ九州幹部は「実現すると信じている」と述べるにとどめた。熊本県、国、ＪＲ九州の３者会合の初開催から２年でこぎ着けた基本合意。２５年３月末までに目指す最終合意へのレールは長い。
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