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「オーバーツーリズム」克服できる?ぎゅうぎゅう詰めのバス、あふれるゴミ、各地の取り組みは? 観光立国目指す日本「外国人に来てもらわなあかん」

 電車に乗れば、大きな荷物を持った観光客が楽しげに話している。観光地に降り立てば、日本人も訪日客もごった返していて、気後れしてしまうほど。

大阪・道頓堀に設置された「スマートごみ箱」を利用する女性=2月26日
大阪・道頓堀に設置された「スマートごみ箱」を利用する女性=2月26日
江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅近くの踏切で撮影する観光客ら=2023年7月2日、神奈川県鎌倉市
江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅近くの踏切で撮影する観光客ら=2023年7月2日、神奈川県鎌倉市
観光客でにぎわう箱根の大涌谷=3月10日、神奈川県箱根町
観光客でにぎわう箱根の大涌谷=3月10日、神奈川県箱根町
車でいっぱいの箱根の駐車場=3月10日、神奈川県箱根町
車でいっぱいの箱根の駐車場=3月10日、神奈川県箱根町
大阪・道頓堀に設置された「スマートごみ箱」を利用する女性=2月26日
江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅近くの踏切で撮影する観光客ら=2023年7月2日、神奈川県鎌倉市
観光客でにぎわう箱根の大涌谷=3月10日、神奈川県箱根町
車でいっぱいの箱根の駐車場=3月10日、神奈川県箱根町

 「観光立国」を掲げる日本。2023年の訪日客は、12月だけ見るとコロナ禍前を上回り過去最高を記録した。
 悲願だった観光地のにぎわい復活…のはずなのに、観光客が押し寄せて住民の生活に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」の問題を耳にする機会が増えた。
 一体何が起こっているのか?共同通信の取材班が各地を訪れると、地域や住民が観光と共存を図ろうと奮闘する姿が見えてきた。(共同通信 オーバーツーリズム問題取材班)
 ▽なくならない行列、たどり着けない座席
 2月中旬、京都駅から清水寺方面に向かうバスの停留所には長蛇の列ができていた。大きなスーツケースを持つ人やスマートフォンを片手に行き先を調べる家族連れが並ぶ。バス1台には乗りきれない人数で、バスは時間を空けず発着を繰り替えしていたが列はいっこうに無くならなかった。
 ようやく乗車しても、ぎゅうぎゅう詰めでドアはスムーズに開かない。乗車した高齢の女性は座席までたどり着けず、買い物の荷物を乗降口近くの手すりに乗せてバスに揺られていた。途中の停留所では、乗車を諦めてバスを見送る人もいた。
 京都は訪日客からの人気も高く、2022年には延べ6600万人以上が訪れた。観光客が押し寄せることで、地元住民が公共交通機関を利用できないこともあるという。
 京都市などは、混雑の緩和に向けてさまざまな対策に乗り出した。京都駅前のバスターミナルには、地下鉄の利用を促すため、どの駅が観光名所に近いかを書いた張り紙などを掲示している。大荷物を抱えて観光地を回らないで済むように、京都駅とホテルの間でスーツケースを代行して運ぶ「手ぶら観光」のサービスを開始。各観光地の混雑状況や混雑予報をまとめたデジタルマップをホームページ上で公開している。
 ▽「汚い場所に人は来ない」ハイテクで改善
 グリコの看板で有名な大阪・道頓堀では、観光客数が回復するにつれて大量のポイ捨てが再び発生し、ベンチや街角にごみがあふれた。2025年4月には大阪・関西万博の開幕も控える。対策としてごみを箱の中で5分の1に圧縮する「スマートごみ箱」を10カ所に設けた。回収の回数も少なく抑えられ、設置後はごみの散乱がほとんど見られなくなったという。
 道頓堀商店会の谷内光拾事務局長は「汚い場所には人は来ない。きれいな街はその最低条件」と訴える。
 ▽「バズり」への対策は?
 東京駅から電車に乗って約1時間。羽田空港や横浜からもアクセスがよく、国内外から多くの人が観光に訪れる鎌倉。特に最近は、人気漫画「スラムダンク」が原作で、アジア全域で大ヒットしたアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」の聖地としても有名になった。
 映画のオープニングで登場する江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅近くの踏切では、同じ構図で写真を撮ろうと車道に身を乗り出す人も多い。こうした写真が交流サイト(SNS)でバズり、さらに人を呼び込む事態となっている。この駅は無人で、周囲には住宅地が広がる。本来は観光スポットではない場所に人が集中し、路上駐車やごみのポイ捨てなどのマナー違反も目立った。
 こうした事態に対応しようと、観光課に「オーバーツーリズム担当」を設置していた鎌倉市は2024年度、観光協会のホームページで展開している混雑マップの対応場所を増やし、混雑状況の将来予測も導入する。観光客が滞留しやすい鎌倉駅前には、ガイドを配置して混雑を避けられるルートを紹介するなどの対応を強化していくという。ただ「観光客に来てほしくないというつもりは全くない」という。観光客の分散による混雑緩和に注力を続ける。
 ▽問題は「観光客が来ることではない」
 全国屈指の温泉リゾートとして知られる箱根は、富士山などの絶景が望める芦ノ湖や、火口から噴煙が立ちこめる大涌谷、美術館や寺社・仏閣など、バラエティーに富んだ観光スポットがあるのが魅力だ。都心から近く、休日にふらりと車で訪れる人も多い。
 一方で、人気の観光スポットへ向かう主要道路が限られていることや道幅が狭いこと、観光客の来訪が一部のエリアや時間帯に集中していることなどが原因で、交通渋滞や店舗の混雑が頻繁に発生。箱根町観光協会が旅行者に対して行ったアンケートでも「交通渋滞」や「公共交通の混雑」が不満の上位に並ぶ。
 「問題は観光客が来ることではなく、一極集中」だ。こう考えた観光協会は「箱根観光デジタルマップ」を作成した。道路や飲食店、駐車場の混雑状況などをスマートフォンなどの地図に表示。混雑していないエリアの飲食店で使えるクーポンも発行する。観光客をすいている時間帯やエリアに誘導することで混雑緩和を図るというもので、2023年11月に試験運用を始め、順次機能を拡張している。
 観光協会の佐藤守専務理事は「渋滞や混雑で満足度が下がってしまうのはもったいない。この時間に来ればすいているのにと思うことも多い。デジタルマップをうまく活用してほしい」。
 ▽どんなに観光客が訪れても「オーバー」と言われにくい都市に
 オーバーツーリズムは、日本では「観光公害」と強い言葉で訳されることもある。国連世界観光機関(UNWTO)は2018年の報告書で「観光地やその観光地に暮らす住民の生活の質、および/あるいは訪れる旅行者の体験の質に対して、観光が過度に与えるネガティブな影響」と定義しているが、実は「どの程度の観光客が来たらオーバーツーリズムだ」といった定量的な指標は存在していない。
 もともと観光地ではない場所や、交通インフラが整っていない場所に急激に観光客が押し寄せ、混雑や渋滞、ゴミの投棄などのマナー違反が発生し、住民が観光に対して否定的な感情を抱く…こうしたことでオーバーツーリズムの問題は起きる。だから、公共交通機関や宿泊・商業施設などが整備された東京は、大勢の観光客が訪れても「オーバーツーリズムだ」とは言われにくい。その地域の受け入れ態勢が整っているか、住民が観光に対してどう考えているか、といったことが非常に重要になる。
 ▽「来てもらわなあかん」切実な声
 そして実際に取材を進め、耳にしたのは「観光客にはもっと来てほしい」という地域の切実な声だった。政府関係者も「オーバーツーリズムの問題を訴えることで、その地域に観光客が来てほしくないと思われるのではないかと懸念している地域もある。実際には局所的な集中が問題なだけの場合がほとんどだ」と指摘する。
 大阪・道頓堀商店会の谷内事務局長は強調する。「外国人に観光に来てもらわなあかん」

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