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【実質賃金マイナス】中小企業賃上げ、道半ば 政権浮揚へ「頼みの綱」

 前年と比べた実質賃金のマイナス期間が過去最長に並んだ。今春闘では高水準の賃上げが相次いだが、中小企業への波及は道半ば。専門家からは実質賃金の「プラス転換」は容易ではないとの指摘もあり、不透明な情勢が続く。一方、賃上げは内閣支持率アップの「頼みの綱」で、岸田政権は「物価上昇を上回る所得」の年内実現を目指している。

賃上げを巡る主な発言
賃上げを巡る主な発言

 ▽立場の弱さ
 今春闘では、積極的な賃上げの動きが中小企業にも広がったものの、大手との賃上げ幅の差は昨年より拡大した。
 自動車などの産業別労働組合(産別)でつくる金属労協の集計(3月29日時点)によると、ベースアップに相当する賃金改善の平均額は、組合員数が299人以下の企業では、千人以上の企業に比べ4370円下回った。その差は前年同期から2倍超に広がった。
 政府は中小企業の労務費(人件費の一部)の上昇分を大企業との取引価格に転嫁する対策を推進。だが十分に転嫁できていない実態がある。
 連合傘下で最大の産別「UAゼンセン」の製造産業部門が今年1月までに行ったアンケートで、労務費の上昇分のうち8割以上を転嫁できたとの回答は従業員規模千人以上では29%なのに対し、100人未満では6%にとどまり、中小企業の立場の弱さが際立つ。
 中小製造業が中心の産別「JAM」の安河内賢弘会長は「大手と中小との格差は容認できない水準まで開いてしまった。価格転嫁の取り組みの裾野は大きく広がったが、道半ばだ」と指摘する。
 ▽再び進行の恐れ
 実質賃金のプラス転換に向けた懸念材料は少なくない。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「実質賃金が本格的にプラス基調となるのは2025年度以降ではないか」との見方を示す。
 足元では円安が進み、中東情勢の緊迫化などで原油価格も上昇傾向にあり、原材料や輸入品の価格が上がれば、緩やかになった物価上昇が再び進行する恐れがあると説明。家庭や企業の電気・ガス代抑制のための補助金が5月使用分で終了することも影響しかねない。
 星野氏は「賃上げには生産性の向上も欠かせない。デジタルトランスフォーメーション(DX)化などへの投資を後押しする政策を強化するべきだ」としている。
 ▽兆候
 「中小企業の賃上げを強力に後押しし、賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を社会全体に定着させたい」。林芳正官房長官は8日の記者会見で、中小企業向けの取り組みを推進する考えを強調した。
 物価上昇を上回る所得の実現は、岸田政権の最重要項目の一つだ。大企業の賃上げの流れを中小企業に波及させるのと同時に、6月からの1人4万円の所得税・住民税減税によって「可処分所得が増える状況を確実につくる」(岸田文雄首相)戦略を立てる。
 中小企業の賃上げの動きに関し、首相周辺は「良い兆候が出ている」としつつ「まだ完全に波及したとは言えない」と警戒感を隠さない。
 賃上げは政権発足以来、最低水準の内閣支持率にあえぐ首相にとって「頼みの綱」(周辺)でもある。自民党ベテラン議員は「賃上げが奏功するか否かが政権浮揚の鍵を握る」と解説した。

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