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【再対決へ一般教書演説】二つの米国像の選択 楽観と復讐の決戦 米ライス大教授 清水さゆり

 民主党のバイデン米大統領(81)が7日、一般教書演説に臨み、11月の大統領選に向けて、共和党のトランプ前大統領(77)との対決姿勢を鮮明にした。バイデン、トランプ両氏は12日、各党の大統領候補に指名されることが確定した。

米ライス大教授の清水さゆり氏
米ライス大教授の清水さゆり氏

 過去3年間のバイデン政権を振り返ると、内政面では(1)新型コロナウイルス対策(2)マクロ経済や雇用の安定(3)学生ローンの返済免除―などの課題で、それなりの成果を上げている。
 特に学生ローンを巡っては、学費高騰に伴って融資を受け、卒業後に多額の返済を迫られていた若者たちの負担軽減を図る措置で、政治的に非常に勇気ある決断だったと評価している。
 外交面でも、トランプ前政権下で損なわれた同盟関係の修復に取り組み、ウクライナへ侵攻したロシアに対する北大西洋条約機構(NATO)や先進7カ国(G7)の団結を主導した。
 だが、そうしたプラス面に目が向けられず、トランプ氏に苦戦を強いられている。最大の理由は高齢だ。リベラルな報道機関も含め、その点ばかり取り上げられ、マイナスに作用している。
 ここに来て、不法移民問題もクローズアップされてきた。最近の世論調査では、米国が直面する最重要課題として不法移民を挙げる人が増え、大統領選の大きな争点に浮上している。
 メキシコ国境を越えてくる不法移民が増えているのは事実だ。ただ、これは常に存在してきた問題でもある。急に脚光を浴びているのは、選挙に合わせて人工的につくり出された感がある。
 その象徴がウクライナ支援と国境管理の強化費を一体化した緊急予算案の審議だろう。上院では超党派で可決されたのに、共和党が多数を占める下院で阻止され、成立のめどが立たない。
 トランプ氏の命を受けた一部の議員が審議を阻んでいるからだ。不法移民問題が好転しない間は「バイデン氏の無策が原因」と攻撃することができるため、意図的にたなざらしにされている。
 私が住み、この問題の最前線となっているテキサス州でも、共和党のアボット知事がバイデン氏や連邦政府を突き上げ、不法移民を逮捕できる州法を成立させたり、流入を阻止する独自措置を打ち出したりしている。
 国境管理は本来、連邦の専権事項だが、副大統領候補の一人に取りざたされるアボット氏はトランプ氏にアピールする一方、州民の「反連邦」気質に乗じて州の施策を推し進めた。
 テキサスは19世紀前半の一時期「テキサス共和国」を名乗る独立国だった。その後の南北戦争でも、北部の「アメリカ合衆国」から分離した南部「アメリカ連合国」に属し、歴史的に州権を重んじる傾向が強い。
 だからこそ、アボット氏の姿勢は州民に受けている。テキサスに暮らして10年ほどになるが、民主党支持者の多い一部地域を除き、独自の不法移民対策は広く支持されていると感じる。
 バイデン氏は向かい風の中、今回の演説で大統領選を二つの米国像の戦いと位置付けた。投票日まで8カ月。「楽観の未来」を志向する自らと「過去への復讐」にとらわれるトランプ氏の選択を国民に問う。(談)
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 しみず・さゆり 東京都出身。上智大で故緒方貞子氏に師事。一橋大大学院を経て米コーネル大大学院で博士号。米外交史と国際関係史を専門とする歴史家。2014年から名門ライス大歴史学部で教える。

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