【中国全人代開幕】楽観演出、展望見えず 統制強め離れる人心
長引く不動産不況、相次ぐ高官のスキャンダル、世界に広がる「脱中国」―。史上初の3選を果たしてから1年となった中国の習近平国家主席は内外の難題に揺れ、不安定な政権運営が続く。5日開幕した全国人民代表大会(全人代)で唱える楽観論とは裏腹に指導部は住宅バブルの後始末に追われ、将来への明るい展望は見えない。市民の不満を封じようと社会統制を強め、人心の離反を招いている。
▽袋小路
「中国の発展は風に乗り、波を突き破って明るい未来を切り開く」。李強首相は全人代の開幕式で政府活動報告を読み上げ、中国経済の潜在力をしきりにアピールした。
習指導部は慣例に従えば昨年秋に開催するはずだった中長期経済政策を決める共産党第20期中央委員会第3回総会(3中総会)を開かずに全人代を迎えた。「不動産不況や地方の財政難を解決するには大胆な改革が必要だが決断できないのだろう」と改革派の男性。大幅な政策転換に踏み切ればこれまでの過ちを認めることになり「進むに進めず、引くに引けない」袋小路の状態だ。
指導部が手をこまねいているうちに景気は低迷し、外資系企業は中国撤退を加速。中国が貿易措置で相手国に圧力を加える「経済的威圧」を繰り返す中、サプライチェーン(供給網)から中国を外す動きも拡大する。それでも2024年の国内総生産(GDP)成長率目標は前年と同じ「5・0%前後」を掲げた。
▽デフレ心理
北京市中心部の巨大商業施設「国貿商城」は3日、日曜日にもかかわらず客足はまばらだった。欧米の高級ブランドが軒を連ね、不動産価格の上昇が続いた時期は多くの買い物客でにぎわったが、この日は手持ちぶさたにスマートフォンをいじる店員の姿が目立った。
中国は長らく続いた不動産バブルが逆回転を始め、消費者心理が冷え込む。北京のITエンジニアの30代男性は「友人が何人もリストラに遭った。自分も不安で今は支出を抑え貯金に回している」と打ち明ける。
需要を喚起しようと、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」から電気自動車(EV)まで幅広い商品で値引き合戦が激化。半面「もう少し待てば値段はまだ下がるかもしれない」と消費を先送りする傾向も現れた。日本で見慣れたデフレ心理が社会を覆う。
▽永遠に反腐敗
盤石だったはずの習氏「1強体制」はほころびが露呈し、国内外で長期支配への懸念が強まる。秦剛前外相と李尚福前国防相が昨年、次々と動静不明になり解任。理由は公表されていないが、李前国防相は中国軍の汚職疑惑への関与が指摘され、秦前外相は何らかの不正疑惑で調査を受けているとされる。
「ハエやアリの腐敗も処罰せよ」。習氏は今年1月、汚職を取り締まる党中央規律検査委員会の会議で反腐敗に「永遠に」取り組むよう要求した。昨年7月の改正反スパイ法施行に続き、今年2月には国家秘密保護法改正案を可決。反腐敗闘争で政敵を排除し権力基盤を固めた習氏は、一段の体制引き締めで内政の動揺を乗り切ろうとする。
今回の全人代では約30年の慣例だった年に1度の首相記者会見を取りやめた。「幼稚な対応だ」と中国の知識人。「党への国民の信頼度はかつてなく低い。中国は今、文化大革命以来最も困難な時代を迎えている」(北京共同=西川廉平、花田仁美)