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【香港国家安全条例】社会統制強化に新たな武器 言論の自由、一層後退

 香港の立法会(議会)は19日、国家安全条例を審議入りから2週間弱という異例のスピードで可決した。2020年施行の香港国家安全維持法(国安法)で民主派は抑え込まれており、当局はさらに強力な「法的武器」を手に入れ社会統制を強める。スパイ摘発の目的だけでなく扇動罪の定義が拡大され、言論や出版、表現の自由にも制限が加わる。運用次第では香港社会を大きく変容させかねない。

国家安全条例が可決された香港立法会で、記念写真に納まる議員ら=19日(新華社=共同)
国家安全条例が可決された香港立法会で、記念写真に納まる議員ら=19日(新華社=共同)
経営する書店で取材に応じる黄文萱氏=15日、香港(共同)
経営する書店で取材に応じる黄文萱氏=15日、香港(共同)
経営する書店で取材に応じる黄文萱氏=15日、香港(共同)
経営する書店で取材に応じる黄文萱氏=15日、香港(共同)
国家安全条例が可決された香港立法会で、記念写真に納まる議員ら=19日(新華社=共同)
経営する書店で取材に応じる黄文萱氏=15日、香港(共同)
経営する書店で取材に応じる黄文萱氏=15日、香港(共同)

 ▽不安増幅
 「議会ではまともな議論がなく、条例の必要性を誇張する発言ばかり。人々を最も不安にさせるのは、何が罪に問われるのか分からない曖昧さだ」。民主派の前区議会議員で独立系書店を経営する黄文萱氏は指摘する。
 現状では扇動刊行物に指定され販売できない書籍はわずかだ。だが23日に条例が施行されれば、中国当局が民主化運動を武力弾圧した天安門事件や19年の香港反政府デモの書籍を取り扱えるかどうかは当局の意向次第となる恐れがある。
 中国に批判的な論調で知られ廃刊となった香港紙、蘋果日報(リンゴ日報)を所持することが違法かどうか問われたトウ炳強保安局長は「合理的に弁解できるかどうかだ」と述べた。
 反政府デモに関する書籍を扱う黄氏の書店は当局の各部門が頻繁に検査に訪れ、圧力にさらされている。黄氏は「条例施行後はさらに何か理由をつけては店を調べに来るだろう」と予測する。
 ▽権限付与
 同条例は国家への反逆行為を知った場合は家族であっても通報を義務づけるほか、政府トップの行政長官に国家機密の範囲を認定する権限を与えた。「国安法の抜け穴を防ぐ」(李家超行政長官)ために広範囲に犯罪行為を規定した上に、立法手続きを経ずに拘束力のある付属条文を香港当局が作成できる権限まで付与した。
 当局が権限強化に固執する背景には19年の反政府デモのような事態を再び起こさせないとの強い意志がある。19年のデモでは警察との衝突が頻発して混乱。李長官は「香港は(反政府デモで)国家安全が重大な脅威にさらされた経験がある」と強調した。
 ▽萎縮
 条例の運用を外国の企業や団体が注視する中、香港撤退の動きも表面化した。香港メディアによると、米政府系放送局、ラジオ自由アジア(RFA)は香港の拠点をなくす。外国勢力による干渉が罪として同条例に盛り込まれたことを受けた対応の可能性がある。
 香港メディアへの影響も軽視できない。香港記者協会の調査では9割のメディア関係者が報道の自由に重大な悪影響があると回答した。陳朗昇主席は「いきなり記者を捕まえだすことはないと思う」としつつ「将来何も起こらないとは言えない」と語った。(香港共同=一井源太郎)

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