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社説(3月3日)「核のごみ」処分場 現行方式で決まるのか

 「核のごみ」と呼ばれる原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分場をめぐり、候補地選定事業を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)の報告書案がまとまった。それによると、全国で初めて文献調査を実施した北海道寿都[すっつ]町と神恵内[かもえない]村が、次の段階の概要調査に進むことが可能だと判断された。
 北海道への最終処分場受け入れに反対してきた鈴木直道知事は、概要調査に「反対の意見を述べる」とするコメントを発表。概要調査に進むには知事や地元首長の同意が不可欠で、実現が見通せない状況になっている。
 また、能登半島地震では海底にある活断層評価が十分でなかった。掘削も可能な陸域に比べると、海底には調査の手が届きにくい。周辺に未知の活断層はないのかという不安が尽きない。
 これまで文献調査を受け入れたのは全国で両町村のみ。巨額の交付金を餌に過疎化や税収難に悩む地方に手を挙げさせる現行方式がいいのか-についても考え直す必要はないのか。科学的な中立性を担保する仕組みも求めたい。
 手を挙げた自治体でも賛否をめぐって住民を分断する恐れがある。首長や議会など一部の人間だけで決めるのでは禍根を残そう。地域全体のコンセンサスをどうやって得るのか、政府には地域任せにしない工夫と努力が必要だ。
 もちろん各地の原子力発電所にたまり続ける使用済み核燃料は、今の世代の責任で必ず道筋をつけなくてはならない。現在の計画では使用済み核燃料から再利用できるウランやプルトニウムを分離・抽出することになっている。残った廃液をガラスと混ぜて固めたのが核のごみとなる。
 極めて強い放射線を出すため、数万年以上は人間の生活環境から隔離する必要があるとされる。そのため地下300メートルより深い岩盤内に埋める「地層処分」を行う。選定調査は3段階で文献調査は第1段階。断層や火山などに関する地質図や論文等の資料を分析し、明らかに適さない場所があるかを調べた。しかし、北海道の2町村に続く自治体がまだ現れていない。
 長崎県対馬市では昨年9月に文献調査受け入れを求める請願を市議会が採択したが、市長が反対した。住民分断や風評被害を懸念したためだという。3日投開票の市長選でも核のごみ問題が大きな争点になっているという。
 一方で岸田文雄政権は、再生可能エネルギーとともに原発の「最大限活用」を掲げ、従来からの原発低減政策を大転換した。最終処分の見通しが立たないまま使用済み核燃料を増やすのなら、その先はどうするつもりなのか。納得できる説明を求めたい。

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