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大自在(3月15日)オーバードーズ

 2年ほど前、円形脱毛症になり市販の発毛剤をドラッグストアで手に取った。この発毛剤が一般薬として発売された二十数年前、欧米で大ヒットした発毛成分がいよいよ国内でも、と上司や先輩たちがざわめいたことを記憶している。
 ミノキシジルというこの成分は、もともと血圧を下げる降圧剤として米国の会社が開発した飲み薬だったが、毛が多く生える副作用が現れ発毛剤に転用された。薬の作用は不思議だ。
 薬のルーツをたどれば、草木、鉱物などの有効成分であり、科学の発達とともに時間と費用をかけて新薬が生み出されてきた。日本製薬工業協会によると、現在使われている薬の99%近くは50年ほど前には存在していなかったという。
 市販薬の恩恵を受ける一方で、昨今「オーバードーズ」と言われる過剰摂取が問題になっている。本来の使い方とかけ離れた服用は、確実に体をむしばむ。以前から指摘されていた危うい行動だが、静岡市内で2020年からの3年間で405人が急性薬物中毒などで救急搬送され、半数近くが10~20代と本紙報道で知った。搬送に至らないケースを考えると、実際にはもっと広まっているのではないか。
 SNSには「OD」という略語が飛び交う。記憶を飛ばしたい、ふわふわした気分になる-。服用せずにいられない思いや様子がつづられている。
 誰しも薬に手を伸ばすのは困った時だ。過剰摂取に走る若い人たちがどんな困難を抱えているのか。販売規制の議論は大事だが、薬に頼る事情に手を差し伸べなければ、事態は変わらない。

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