新興ウイスキーを世界へ 焼酎メーカーが挑む高級路線 国産ブームを追い風に
山形県酒田市の焼酎メーカーが造るウイスキーが国内外で人気だ。「デビュー作」は1本1万6500円と高値にもかかわらず品薄に。国内で酒離れが進む中、世界的な「ジャパニーズウイスキー」ブームを追い風に、新興の蒸留所がブランド化に挑戦している。
山形県北西部の遊佐町のウイスキー蒸留所で9月、重機がせわしなく行き交っていた。「もうたるが入りきらない。これからもっと広げますよ」と笑顔を見せるのは、焼酎メーカー「金龍」(酒田市)の佐々木雅晴社長(70)。貯蔵庫を2倍に拡張する計画だ。
蒸留所が本格稼働したのは2018年。遊佐から取った「YUZA」の名前を冠し、22年2月に世に送り出したばかりの「ファーストエディション2022」は高く評価され、フランスでは約4万円の値を付けた。熟成期間は3年程度と若く、年を取ったものほど高価になるウイスキーでは異例の扱いだ。
バニラのような甘みや、フルーティーさを追求し、たるごとに仕上がりが微妙に異なる原酒を厳選して調整。10月発売の2作目は約400のたるから約60に絞って出荷した。
ウイスキーに挑戦したきっかけは、焼酎以外の事業を模索していた約10年前。埼玉県の小規模な蒸留所「ベンチャーウイスキー」(秩父市)が英国の専門誌で高い評価を得たと知り、触発された。本場スコットランドのメーカーに設備を発注し、国内のメーカーにも教えを請い、技術を培った。焼酎もウイスキーも蒸留酒で製造過程は似ているが、佐々木さんは「『YUZA』の味を出すのに数年かかった」と振り返る。
「ジャパニーズウイスキー」には追い風が吹く。国内の酒販売はビールや清酒を中心に消費量が減っているが、ウイスキーは堅調。特に輸出は好調で、国税庁によると、21年の輸出量は10年前の7倍を超えた。長年清酒が輸出をリードしてきたが、輸出額は20年にウイスキーが逆転し、21年の額は461億円に上る。
フランスや米国、中国の市場がけん引役だ。00年代に入り国産ウイスキーが相次いで海外の品評会などで表彰され、「ジャパニーズウイスキー」の評価を高めたことが後押しした。「世界でブームが続いているうちに、『YUZA』ブランドを浸透させたいですね」。佐々木さんは海外に目を向けている。