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半期の振り返り 記者座談会㊤【賛否万論】

 「賛否万論」でこれまで約半年間に取り上げたテーマについて、取材に関わった記者3人が2週にわたって振り返ります。有識者やキュレーター、読者の皆さんの意見や取材を通して浮かび上がった課題や思いを座談会形式でまとめました。今回のテーマは「生成AIを学校現場で使うのはあり?」と「スマホ・ネットの家庭内ルールどうしてる?」です。(社会部・大橋弘典、薬袋貴信、大須賀伸江)

テーマ「生成AIを学校現場で使うのはあり?」の内容に添って生成AIで作成したイメージ画像
テーマ「生成AIを学校現場で使うのはあり?」の内容に添って生成AIで作成したイメージ画像
「スマホ・ネットの家庭内ルールどうしてる?」の内容に添って、生成AIで作成したイメージ画像
「スマホ・ネットの家庭内ルールどうしてる?」の内容に添って、生成AIで作成したイメージ画像
テーマ「生成AIを学校現場で使うのはあり?」の内容に添って生成AIで作成したイメージ画像
「スマホ・ネットの家庭内ルールどうしてる?」の内容に添って、生成AIで作成したイメージ画像

 テーマ「生成AIを学校現場で使うのはあり?」(2023年8月25日~10月6日)
 #1インタビュー 仕組みは“ものまねマシン” 静岡大情報学部准教授 狩野芳伸さん
 #2インタビュー 学習目的を考えることが大切 静岡大教育学部准教授 塩田真吾さん
 #3チャットGPTに記事を書かせてみた
 #4インタビュー 教員の校務省力化に有効 県教委教育監 塩崎克幸さん
 #5~#7 キュレーターと読者の意見
まずは使ってみる  大橋 このテーマで記事を書くために、対話型の生成AI「チャットGPT」の使い方を勉強した。「#3 チャットGPTに記事を書かせてみた」でも触れたが、プロンプト(指示文)が大事だし、AIは何が苦手なのかも分かった。有料版も使い始め、他の記事を書く際にご意見番として多角的にコメントをもらったり、専門的な内容の情報をかみ砕いたりする際に役立っている。学校の教員も含めて、まずは使ってみた方がいい。

 薬袋 チャットGPTを使って記事を書く試みを参考に、自分も試しに使ってみた。記事中にある通り、「指示」によって結果が大きく異なることを実感した。完成形をイメージし、自分が欲しい情報を導きだすプロセスは、普段の取材で取材相手に投げかける質問にも通じると思った。

確実に作業効率化  大須賀 10歳の娘がチャットGPTとピアノコンクール感想文の文章力を競ってみたいと言うので手伝った。チャットGPTの感想文は「『キラキラとした青春風』で書かれていて、(娘は)外からそう見られていることに違和感を抱いた」と言う。娘にとっては「(ピアノコンクールは)高い壁に必死によじ登ろうとする泥くさいもの」なのだそう。「チャットGPTの感想文はリアルと違う」と思えることは自分の体感や言葉を持っている証しで、その土台となる実体験はやはり重要だ。変わった使い方かもしれないが、AIが集約した「あなた、こう思っているんでしょう」という“価値観”に触れる体験は自身の思いに気づくきっかけになる。

 薬袋 生成AIの活用法として、有識者の方々が言うように、議論の前段階など“とりあえず”内容をまとめるには非常に有用だと思う。イメージとしては、いわゆる“まとめサイト”のちょっと賢い拡大版。「生成AIは間違えることもある友達」という識者のコメントには納得した。事務作業の効率化や教育現場での教員の負担減にもつながるツールなので、もっと積極的に使えば良いと思う。

「主体性」とスキル  大須賀 チャットGPTは具体的で的確な指示を入力しないと、相応の回答しか得られない。たとえ英文を作るのでさえ、まずは日本語で意図を伝える力が求められるし、日頃から興味関心を持って、思考を深めておくことが重要だ。学習指導要領が掲げる「主体性」とAIを使いこなすスキルはつながっていると感じている。年齢制限はあるが、学校教育で取り入れても面白そうだ。

 大橋 「生成AIを使うと、事実関係が間違うので使わない」とか「生成AIに読書感想文を書かせたら作文力が身につかない」いう声を聞くが、生成AIの登場で、プログラミングが分からない一般人でもコンピューターを使ってできることが広がった。生成AIを使って、いかに優れた読書感想文を書かせるかを競う読書感想文コンクールがあってもいいのではないか。
 テーマ「スマホ・ネットの家庭内ルールどうしてる?」(2023年10月13日~11月17日)
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 #4~#6 キュレーターや読者の意見
リテラシー理解を  薬袋 いまやテレビの視聴時間よりスマートフォンの接触時間の方が長く、青少年がネットに起因する犯罪で被害者にも加害者にもなっている現状からテーマ設定を考えた。取材を通して、セーフティーネットとして機能すべきフィルタリングが年代によっては形骸化していることも分かった。日常生活に不可欠なものだからこそ、どのように付き合っていくか、ネットリテラシーを理解する重要性が浮き彫りになった。

 大橋 記事を読んで、20年前に浜松市内の小中学校を回って「ITが変える 情報教育の現場から」と題した連載記事を執筆したのを思い出した。インターネットが浸透していたが、スマホはまだなかった時代。連載2回目の見出しは「求められるモラル 家庭との連携も必要」。指導教諭が「要は相手の気持ちを考えること。情報モラルも日常生活のモラルと変わらない」とコメントしていた。その教育を受けた世代が親になりつつあるが、問題の本質は時代を経ても変わらないのだと感じる。

「パパも見ている」  大須賀 家庭内ルールは効力があるのだろうか。共働き家庭の増加で、一人の時間を過ごす子が増えた。そうした子ほど早い段階からスマホを与えられる傾向があるのではないだろうか。親が子どもと一緒に居る時間は減っていて、見守りには限度がある。キュレーターの話にもあったが、「子どもの自制が効かない問題」はスマホに限らず昔からあり、ほぼすべての親が、子ども時代に心当たりがあるのでは。本人のモラル形成だけに頼るのは酷な気もする。

 大橋 小学生のわが子もスマホゲームや動画に夢中になっている。動画の視聴はいったん時間制限をルール化したが、「パパはもっと見ている」と言われて有名無実化した。キュレーター杉山有希子さんの「世の中ではやったり、みんなが持っていたりするものって必ずこの先、役に立つ」というコメントとともに「本当にやめさせたいのなら、まず親がネットから離れるといい」という指摘がふに落ちた。

子の性被害が心配  大須賀 交流サイト(SNS)きっかけの子どもの性被害が年々増えていて心配だ。子どもの交流相手は基本的に、同年代に限られているので、小学校くらいから、周りに信頼できる大人が大勢いると良い。「その人たちがしないこと」をSNSでやりとりする相手から提案された時に「この人は変だ」と気付くことができる。

 薬袋 今後、デジタルやSNSネーティブのZ世代が本格的に親世代になる。彼らが自分たちの子どもに、どうデジタル教育を施すのか、非常に興味深い。有識者の長沢弘子さんも指摘していたが、ネットの世界は想像以上の悪意がはびこっている。アナログ的な発想になるが、情報の取捨選択や善悪の価値判断を会話できるよう、親子間で信頼関係を築くことが、スマホ・ネットとの“ほどよい”付き合い方の端緒になるのではないだろうか。

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