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コミュニケーター育成 専門家と社会の架け橋【科学を楽しむ 静岡る・く・る20年㊦】

 カヤネズミのお面を着けた子どもが、天敵のヘビ役の大人から逃げながら餌カードを集めるロールプレイ。山根真智子さん(47)=静岡市清水区=がふじのくに地球環境史ミュージアムなどで企画する人気のワークショップだ。「小さなネズミも懸命に生きているんだね」「麻機遊水地で見てきたよ」。生態や生息環境について理解を深めた子どもからは、多数の声が寄せられる。

カヤネズミのワークショップ用にお面の準備をする山根さん。「科学好きの仲間と知り合い、刺激し合いながら活動できている」と語る=静岡市駿河区のふじのくに地球環境史ミュージアム
カヤネズミのワークショップ用にお面の準備をする山根さん。「科学好きの仲間と知り合い、刺激し合いながら活動できている」と語る=静岡市駿河区のふじのくに地球環境史ミュージアム

 山根さんは、科学の知識を市民に分かりやすく伝える「科学コミュニケーター」(SC)。かつては京都市の大学院で動物行動学を学びながら科学館で展示解説の仕事をしていたが、家族の都合で本県へ転居。出産も重なった。「大好きな科学の仕事はもうできない」。そう思っていた2012年度、静岡科学館る・く・るのSC育成講座に出合った。1期生として巣立ち、地域で動物の生態を紹介する企画を続ける。「動物を身近に感じてもらうことは環境保全の意識向上につながる」と語る。
 SCは科学技術を市民に解説するとともに、市民の疑問や期待を専門家に伝えて科学と一般社会の架け橋の役割を果たす。英国で牛海綿状脳症(BSE)が社会問題となった1980年代にニーズが高まった。日本でも2000年代に国の科学技術基本計画に重要性が記され、養成が進んだ。
 る・く・るは12年度、育成講座を開始。科学ワークショップの企画から運営までを体験する年間10回前後の講座に加え、独自の実践を報告すると修了できる。大学生、企業の広報担当、仕事を引退したシニアなど23年度までに10~80代の多様な131人が受講した。公民館や学校の出張授業など受講生が市内外で展開した企画は2千を超え、参加者は延べ13万人を上回る。
 SC講座運営の中核を担う職員代島慶一さん(43)は「科学館にとどまらず、各地で科学コミュニケーションが着実に増えている」と手応えを語り、育成継続への決意を新たにする。
 (教育文化部・橋爪充、鈴木美晴)

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