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【静岡・消防士殉職火災】遺族「小隊長一人に責任、疑問」 市報告書の再検証訴え

 2022年8月に静岡市葵区呉服町の雑居ビルから出火し、市消防局駿河特別高度救助隊の男性=当時(37)=が殉職した事故で、市が組織的課題を検証した報告書を公表したことを受け、男性の妻(40)が13日までに、取材に応じた。消防局の組織的課題に踏み込んだ検証を一定程度評価する一方で、命綱の不使用を指示した小隊長の懲戒処分を「殉職事故を防ぐ処分とは思えない」と否定的に受け止め、「消防組織が隠す全ての問題点を踏まえ、検証し直してほしい」と願った。
消防隊員殉職火災事故を巡る関係者の見解
 市消防局は今回の事故で、小隊長に対する減給6カ月の懲戒処分を発表した。妻は「いろいろなミスがありながら組織が小隊長一人に責任を負わせたのは疑問。わが家は一生、夫の死を背負っていくのに、これで責任を取ったと言われても納得できない」と語った。消防幹部から「処分することで今後殉職事故が起きないようにする」と説明を受けたと明かし、「それよりも活動の問題点を全て公表して、今後に生かす方が事故防止につながる」と訴えた。
 男性に続いて2番手で現場に入った元消防隊員が6日に記者会見を開き、屋内退出時に男性の右肩を2回たたき、右手で出口方向を示すジェスチャーを送ったところ、男性は首を縦に細かく動かし、うなずいた様子だったと説明した。これに対し、妻は「夫は必ず『了解』と言いながら親指を立てる合図をすると言っていた。報告書にこの合図の話が一度も出てないし、退出時のジェスチャーのみのやりとりに違和感を覚える」と疑問を呈した。元隊員に対しては「夫がホースの筒先を触れたか、後に続いてきているかを確認しながら退出してほしかった」と悔やんだ。
 事故から1年7カ月-。「ただ、ただ、子どものために、夫を失った深い悲しみを押し殺して必死に一日一日を生きてきた」。市の検証の基となった有識者による事故調査委員会の報告書は「消防の都合の良い説明を基に話し合いが始まっており、活動全ての問題点を挙げたものではないので意味がない」と指摘した。
 消防局の対応には「活動のミスを指摘する度に話が二転三転し、最終的に正当化する理由が後付けされた。殉職事故のミスの大半は隠されたまま。これが誠意を持った対応と言えるのか」と批判した。

難波市長「処分妥当」
消防隊員殉職火災事故を巡る静岡市の検証内容の正当性を主張する難波喬司市長=13日午前、市役所静岡庁舎
 静岡市の難波喬司市長は市役所静岡庁舎で開いた13日の定例記者会見で、消防隊員の殉職事故が起きた火災現場で、亡くなった男性とともに活動した元隊員の男性(31)が、命綱の不使用を指示した当時の小隊長の判断は正しく、小隊長の懲戒処分は不当と主張していることについて「命綱を付けていれば(男性を)1人残し、(他の隊員が)気付かずに亡くなる事態は避けられた。それでも命綱を付けない方がリスクが低いと言えるのか」と述べ、処分は妥当との見解を改めて示した。
 加えて難波市長は、外部有識者で構成する市の事故調査委員会が2023年8月に公表した報告書は「最終的な検証としては不十分なところがある」などとして市ホームページでの公開を近く取りやめる考えを明らかにした。事故調の報告書と、その後に市が行った再検証結果には「事実関係が違う点がいくつかある」とし、相違点を明らかにした資料を今後公表するとした。
 元隊員が、規範に反して命綱を付けずに活動したのは、隊員の安全面や活動効率上の観点から合理的だったと正当性を主張したのに対し、難波市長は「実際に事故が起き、命綱を付けないリスクが現実になったのに、どうして活動制限のリスクを大きく評価するのか」と疑問視した。
 市が行った検証作業では元隊員から聴取していないが、難波市長は「これ以上新しい事実を掘り起こすことに意味はない」との考えを示し、今後も聴取予定はないとした。その上で「ある程度分かったことを前提に、いかに組織を改善するかが大事。真実を追求するのが目的ではない」と強調した。

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