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【表層深層】大手、守りの経営転換へ 人材獲得に“異例”続出

 今春闘の集中回答日を13日に迎え、自動車や電機大手は過去最高水準の賃上げで相次ぎ妥結した。人材獲得へ労働組合の要求を上回る異例の回答も続出。バブル崩壊後に染みついた守りの経営を転換する姿勢が目立った。一方、中小企業は大手との取引で値上げできず苦悩し、賃上げの余力に乏しい。春闘の動向を踏まえ、日銀が来週下す金融政策の判断も注目される。
春闘の集中回答日を迎え、ホワイトボードに書き込まれた労使交渉の回答状況=13日午後、東京都中央区の金属労協事務所
 ▽一流の処遇
 日本製鉄は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)相当分が月額3万5千円と回答。労組の要求に5千円上乗せした。「世界ナンバーワンへの復権に向けて取り組んでいる。一流の処遇にふさわしい一流の実力を発揮してほしい」。三好忠満執行役員は従業員に奮起を促した。
 利益をため込む企業に政府が賃上げを迫る-。安倍政権以降の「官製春闘」は、暮らしを圧迫する物価高と、人手不足の深刻化で新局面に入った。企業は自発的に賃上げを進めないと、望む人材の確保はままならない。
 ホンダは2月、労組の2万円の賃上げ要求に2万1500円と回答。「すき家」や「はま寿司」を運営する外食大手ゼンショーホールディングスも、労組要求を上回る平均12・2%の賃上げで妥結した。力を入れる海外展開を志向する人材を幅広い業界から募る狙いがある。
 電機大手はベア月額1万3千円で、ほぼそろった。満額回答だが、幹部は「日鉄のような要求超えの回答が出ると、満額回答でも低く見える。事業内容が異なる電機業界で、同じ要求を掲げる『統一闘争』を続けるのは無理があるのではないか」と話した。
中小企業の賃上げ予定
 ▽きれいごと
 賃上げは中小企業でも広がっている。日本商工会議所の調査では、2024年度に賃上げを予定する中小企業は61・3%と前年度から3・1ポイント増えた。しかし、賃上げ予定企業のうち、業績は低調だが賃上げするとの回答が過半を占めた。人材確保のためとみられ、内情は厳しい。
 「別の企業への発注も検討したい」。自動車のエンジン部品などを生産する焼結合金加工(川崎市)の高柳昌睦社長は値上げ交渉を始めた22年、取引先に伝えられた。交渉は難航し、その間に入った注文を従来価格で納入する事態に陥った。
 だが最近になり、取引先から値上げ交渉の申し出があった。政府は、労務費を取引価格に転嫁できるようにするための指針を23年11月に公表しており、高柳社長は「かなり効いている」と評価。大企業に価格転嫁への積極的な対応を求めた。
 首都圏の別の自動車部品メーカーは、新型コロナウイルス流行後の業績悪化を受け、組合員の2割が会社を去った。昨年は従業員を引き留めるためにベアを実施したが金額は3千円にとどまった。組合幹部は「大手との賃金格差は広がる一方だ。大手は中小への賃上げ波及を願うというが、きれいごとだ」と嘆いた。

 ▽中小の対策
 法政大の山田久教授(労働経済)は「大手を中心に賃上げの流れが定着してきたが、中小への広がりは不十分だ」と指摘する。政府は、価格転嫁の後押しに加え「企業同士で人材育成の仕組みを共有するなど、連携を促す政策を講じ、中小の生産性を高めることが必要だ」と強調する。
 日経平均株価が2月、34年ぶりに史上最高値を付け、今月には4万円を突破した。企業が人への投資を増やし始め、長期低迷が続いた日本経済は転換点にあるのか-。日銀は18、19日に開く金融政策決定会合で、大きな節目となる利上げなど政策変更を議論する。

 Q&A 「集中回答日」 大手経営側が一斉回答
 2024年春闘の集中回答日を迎えました。
 Q 集中回答日とは。
 A 自動車や電機など製造業大手の経営側が、賃上げなど労働組合の春闘要求に対する回答を一斉に伝える日です。例年3月中旬です。
 Q 今春闘の特徴は。
 A 過去最高水準の賃上げ回答が相次いでいます。集中回答日を待たずに満額回答する企業も目立ちます。3月下旬以降に妥結する中小企業の労使交渉に追い風となりそうです。歴史的な物価高に見合うよう、ベースアップ(ベア)を含む大幅な賃上げが求められているのに加え、人手不足で人材確保の必要性が高まっていることが背景にあります。
 Q ベアとは何ですか。
 A 勤続年数などに応じて実施される定期昇給とは別に、企業が従業員の基本給の水準を一律に引き上げることです。
 Q 今後の焦点は。
 A 物価上昇を上回る賃上げが中小企業にも広がるかどうかが注目されます。経団連によると、23年春闘で会員の大手企業の平均賃上げ率は3・99%と31年ぶりの高水準でした。それでも働く人全体でみると物価上昇に賃金の伸びは届いておらず、家計は苦しい状況が続いています。

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