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【持続可能な未来へ 地域×SDGs×くらし 番外編】 コロナ禍、ロ侵攻で停滞

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、達成期限の2030年まであと7年。「誰ひとり取り残さない」の理念の下に掲げた貧困や飢餓の撲滅など17分野は、新型コロナウイルス流行やロシアのウクライナ侵攻の影響で停滞している。SDGsの道のりを振り返り、今後の展望や私たちが取るべき行動を探った。SDGsのロゴ(国連提供)

Q&A 30年達成は危機的状況 順調推移15%のみ
 国連の持続可能な開発目標(SDGs)は2015年の採択から8年が経過し、目標年の30年に向けた取り組みの加速が求められています。
 Q あらためて、SDGsとはどんな目標なのですか。
 A 国連に加盟する全ての国が目指す目標として、15年の国連サミットで採択されました。「健康と福祉」「気候変動対策」など計17分野を設定。各分野に対応した計169のターゲットで、数値目標や達成時期を示しています。例えば健康と福祉では、死亡する妊婦を30年までに世界で出生数10万人当たり70人未満に削減すること、などです。
 Q 30年までに達成できそうですか。
 A 残念ながら厳しい状況です。国連が昨年7月にまとめた特別報告によると、169ターゲットのうちデータ分析可能な約140項目を評価した結果「(30年達成への)軌道から外れている」が48%、「停滞あるいは後退した」は37%に上りました。「順調に推移している」は15%に過ぎません。国連は昨年9月の首脳級会合で「達成は危機的な状況だ」として、各国に政策推進と国際協調を促す政治宣言を採択しました。
 Q 日本はどうですか。
 A 決して順調ではありません。国際的な研究組織が各国の達成度に関して毎年公表している報告によると、23年の日本の総合ランクは21位。年々順位を落としています。「ジェンダー平等」「気候変動対策」「海洋生態系保全」など5分野に「深刻な課題がある」と判断されました。
 Q どんな課題を指摘されましたか。
 A ジェンダー平等では、国会議員の女性比率の低さや男女の賃金格差が問題とされました。気候変動では、化石燃料使用による二酸化炭素(CO2)の排出量の多さや、温室効果ガス排出に課金する「カーボンプライシング」などの制度が不十分な点が低評価につながりました。
 Q これから私たちができることは何ですか。
 A 日本の教育現場や企業活動でSDGsを取り扱う機会が増え、認知度は高まりました。ただ、個人の意識や生活様式の変革にはなかなかつながっていません。SDGsを「未来への貢献」と捉えて、一人一人の行動を企業や自治体の活動と結びつけ、達成を目指して大きな流れをつくっていく必要があります。

インタビュー 根本かおる 国連広報センター所長
後半戦へ、変革のうねりを

根本かおる所長
 2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の前半戦を振り返ると、17分野の169ターゲットのうちデータで評価可能な約140で、順調に推移しているのは15%のみだ。大変厳しい現実を突きつけられた。
 前半戦の停滞の背景には、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻、気候変動などがある。新型コロナでは元々脆弱(ぜいじゃく)な立場にいた人たちは自力で乗り越えるのが難しく、困窮してしまった。ウクライナ侵攻では、世界の穀倉地帯で危機が起きるとどういうことになるか、私たちはまざまざと見せつけられた。スーパーで物の値段が上がり、実感した人も多いだろう。
 これまでは「できるところからやっていく」というアプローチが多かったが後半戦では大転換が必要だ。国連では、大きな波及効果が見込め、流れを変える「ゲームチェンジャー」として①食料システム②再生可能エネルギー③デジタル化④教育-など六つのテーマを挙げている。
 それを可能にするためには、まずは資金が必要だ。刺激策に毎年5千億ドル(約75兆円)が必要とされており、政府だけではなく民間の協力が欠かせない。
 日本はSDGsの認知度が9割以上というデータもあり、取り組む企業にも好意的な評価が集まるなど、理解が進んでいる国だ。ただそれが表面的なブランディングにとどまっており、具体的な行動になっていない。もう認知だけでは足りず、大きな変革のうねりと言えるレベルにまで持っていかないといけない。
 例えばジェンダー平等を実現する手段の一つとして、女性の管理職を増やそうという取り組みがある。日本では、数を増やすという目標ありきで、どうして女性を増やすことが必要なのか、どのような効果を得られるのかというところまで思いが至っていない企業もあるのではないか。
 女性役員の比率が高い企業は、収益率が高いというデータがある。いろいろな目を持った人が役員にいると、ビジネスチャンスにより気付くようになるのだろう。
 トラブルやスキャンダルの芽も、同一の価値観しか持たない人たちより多くの目で見た方がいい。企業が女性活躍を推進していると、社会的にも、資金調達の場面でも評価される。
 メディアの役割も重要だ。SDGsの認知が広がったのは報道によるところが大きいが、今後はどう成果につなげるかということを意識して伝えていくことが大事ではないか。

 ねもと・かおる 1963年生まれ。神戸市出身。テレビ局記者、アナウンサー、国連難民高等弁務官事務所職員などを経て2013年から現職。

持続・多様性 解決の鍵に 自治体 あの手この手
 貧困やジェンダー平等、気候変動-。持続可能な開発目標(SDGs)は発展途上国の問題だけでなく、国内の課題に直結する項目が並ぶ。少子高齢化や経済力の低下など、日本を取り巻く環境が厳しさを増す中、政府や自治体は、持続性や多様性をキーワードに地域社会の課題解決に取り組んでいる。
 政府は2016年5月、首相をトップに全閣僚が参加する推進本部を設置した。各省庁の具体策を盛り込んだ行動計画を毎年作成。機運を高めるため、先進的に取り組む企業や団体を「ジャパンSDGsアワード」として表彰してきた。23年12月に改定した最新の実施指針では「多様性と包摂性のある社会を築く」と強調し、持続可能な経済・社会システムの構築や国際社会との連携・協働など五つの重点事項を掲げた。
 自治体もあの手この手を講じる。「持続可能な日本一のりんご産地」を掲げる青森県弘前市は、先端技術の導入や働きやすい環境づくりを進め、農業所得の向上や担い手確保を目指している。
 ジェンダー平等をまちづくりの中心に据えるのは長野県松本市。子育て支援の充実や企業での女性登用の働きかけなどを通じて若年層に選ばれる環境を整え、人口減少に歯止めをかける考えだ。
 岡山県備前市は、割れたり、欠けたりして使われなくなった備前焼の陶器を回収。粉砕し、粘土に混ぜて原料に再利用している。従来はごみとして埋め立て処分していた。リサイクルすることで「環境に優しい備前焼」をPRする。使われなくなった備前焼の陶器を回収するために設置されたボックス=2022年9月、岡山県備前市

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