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浅草のゾウ震災生き延びる 遊園地職員が救い出す 100年前、石版画に

 今から100年前、関東大震災に襲われた東京の繁華街・浅草でゾウが被災していた。燃えさかる炎や逃げ惑う人々を前に、途方に暮れたように立ちすくむ姿を描いた3枚の絵が日本最古の遊園地・浅草花やしき(震災当時は「花屋敷」)で見つかった。描かれているのは、園の職員に救い出された「インドゾウのジョニー」だったらしい。

浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
関東大震災後の花屋敷(現・浅草花やしき、東京都復興記念館所蔵)
関東大震災後の花屋敷(現・浅草花やしき、東京都復興記念館所蔵)
救出されたゾウと福井酉造さんとみられる写真(東京都復興記念館所蔵)
救出されたゾウと福井酉造さんとみられる写真(東京都復興記念館所蔵)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
浅草花やしきで見つかったゾウが描かれた石版画(同社提供)
関東大震災後の花屋敷(現・浅草花やしき、東京都復興記念館所蔵)
救出されたゾウと福井酉造さんとみられる写真(東京都復興記念館所蔵)

 昨年、倉庫で発見されたのは3枚の石版画(リトグラフ)。いずれも縦約40センチで横約55センチ、赤い炎と黒い煙を背景に人混みとおびえた様子のゾウを描いている。
 園内には当時、多数の動物がいて多くが犠牲になった。園に古い資料はなく、石版画のゾウについての詳しい記録も残っていない。
 動物園の歴史に詳しい溝井裕一関西大教授(西洋文化史)によると、当時は野生動物を大量に捕獲して輸出販売する外国の会社もあり、民間企業がゾウを入手するのも難しくはなかったという。
 1923年9月の震災から1カ月後の「大震災画報」(文化研究会)は、園で庭師をしていた福井酉造さんが11歳のゾウを救出したと報じている。記事で福井さんは「どちらを見てもただ火ばかり」「(ゾウを)無我夢中で引きずった」と救出劇を語る。62歳の老ゾウ2頭は「見限るほかは仕方がなく」焼け死んだ。
 10月6日付の東京朝日新聞(当時)は、救出されたゾウがおりでジャガイモなどを食べている様子を写真付きで報じた。お隣に当たる上野動物園の「百年史」は、曲芸で人気者だったジョニーの可能性があるとする。
 東京都復興記念館(東京都墨田区)の学芸員森田祐介さんによると、石版画は23年9~10月に東京の印刷会社2社が発行したもの。震災を象徴する場面を派手な色使いで描いており、被災地訪問の土産品として売られていたとみられる。「火災や逃げる人を写した写真は少なく、緊迫した場面を伝える絵は資料的価値が高い」(森田さん)
 3枚とも救出されたゾウを描く理由を、森田さんは「明るいニュースがなく、希望が持てる救出劇が好まれたからではないか」と分析している。
 その後、ジョニーはどうなったのだろうか。25~35年ごろの園内マップには大小2頭のゾウの姿がある。23年12月に上野動物園から受け入れた老ゾウと一緒だった可能性がある。
 花屋敷は35年に経営破綻し人手に渡った。全ての動物は仙台市動物園(現・八木山動物公園)に売却された。仙台市に残る当時の記録にはインド産のゾウ1頭がいたと記されている。

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