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連続視標「東日本大震災12年」5の2 復興の総合的な検証が必要 住民主体の地方自治を 福島大教授 川崎興太

 わが国の復興政策の枠組みは、1961年の災害対策基本法、62年の激甚災害法の成立によってほぼ確立された。市町村が国の補助金を得て、災害で壊れた道路や橋などのインフラを再整備するというものだ。

川崎興太・福島大教授
川崎興太・福島大教授

 被災者ではなく、被災地を主たる対象とする政策である。再整備による「空間の復興」が進めば、被災者が家を建てて戻り、地域経済も回復する。人口が増加していた経済成長期には機能した。
 東日本大震災後にもこの枠組みが使われた。時代は低成長期であり、被災地は人口減少、高齢化が顕著な地域だ。インフラは再整備されたものの、空き地の目立つ地域が多い。かつての復興政策の枠組みが通用しなくなっている。
 加えて、福島県では東京電力福島第1原発事故による原子力災害が深刻だ。原発周辺市町村では被災者の帰還を可能にするため、除染とインフラ再整備の後、避難指示が解除されてきた。
 原子力災害には被害の広域性と長期性という特徴がある。現在、原発事故直後に国が避難指示を発令した地域に住民票のある被災者は約6万4千人だが、その75%は故郷を離れて避難し続けている。「空間の復興」の恩恵を受けて、生活再建、言い換えれば「人の復興」を果たした被災者は限られている。
 被災者の生活再建状況に関する体系的な調査は行われていないが、深刻なデータが公表されている。福島では、避難生活における体調の悪化などによる震災関連死が2300人を超えている。地震や津波などによる直接死の約1・5倍だ。
 震災関連死は、復興の過程において発生した死であり、復興政策の在り方によっては防ぐことができた死である。震災から10年で31兆円もの予算が確保され、さまざまな事業が行われてきた。これまでの復興政策は、多くの震災関連死を防ぐことができないものだったということだ。
 被災者の心のケアが実施されている。原発事故から12年にもなるのに、なぜ心のケアが必要になるのか、その理由が問い直されるべきだ。
 課題は二つある。一つは、原子力災害からの復興に関する国民全体での総合的な検証である。
 原子力災害は今なお続く。廃炉、除染土壌の県外最終処分、多核種除去設備(ALPS)で浄化された処理水の海洋放出、帰還困難区域の避難指示解除、農林水産業の再生など、長期にわたって復興を進めていかざるを得ない。
 特別な政策には必ず終わりがある。福島の問題は、いつしか福島に閉じられたローカルな問題になってしまっている。国民全体で福島の復興の出口を見定めるためにも、復興に関する総合的な検証が必要だ。
 もう一つは、住民主体の地方自治の強化である。原発事故後には、大規模太陽光発電所(メガソーラー)が各地に整備された。原発がソーラーに替わっただけで、東京へのエネルギー供給地としての役割は続いている。ほとんど住民には恩恵がないという事態が散見される。
 復興とは、原発を誘致したときのような、東京依存、国依存、行政依存のまちを再生産するのではない。住民が復興の在り方を議論し、地域のことを自ら決定してまちをつくりあげることが重要である。
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 かわさき・こうた 1971年茨城県生まれ。筑波大博士(工学)。建設コンサルタント会社などを経て2010年から福島大。専門は都市計画・まちづくり。近著に「福島復興の到達点」。

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