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視標「H3ロケット失敗」 再挑戦で失地回復を 巨大システムに落とし穴 宇宙ビジネスコンサルタント 斉田興哉

 日本の宇宙開発の新たな主力となるはずのH3ロケット1号機が、残念ながら打ち上げに失敗した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業には、徹底した原因究明と万全な対策を講じた上で再挑戦が求められる。日本のロケットは価格面で課題が指摘されてきたが、これまで築き上げてきた技術や信頼性の面でも課題が残る結果となってしまった。

宇宙ビジネスコンサルタントの斉田興哉氏
宇宙ビジネスコンサルタントの斉田興哉氏

 種子島宇宙センターから上昇した機体は第1段エンジンの燃焼は正常で、上空で固体ロケットブースターが分離するのも確認できた。順調に飛行していたが第2段エンジンの点火が正常に動作しなかったようだ。打ち上げから約14分後に上空で指令破壊された。
 H3は現行のH2Aに代わり、日本の基幹ロケットとなる計画。2020年の打ち上げを目指して14年に開発が始まったが、第1段の主エンジンで不具合が起きた。開発は困難を極め、打ち上げがたびたび延期されてきた経緯がある。
 困難を乗り越えて先月17日にようやく打ち上げにこぎ着けたが、射点で固体ロケットブースターに点火する直前に、主エンジンを制御する電子機器の電源が落ちるトラブルが発生した。打ち上げ中止から半月余りで対策を講じ、再挑戦となったが、前回とは異なる第2段でトラブルが起きたようだ。
 第2段で何が起きたのか気になる。不具合の詳細は現時点では不明だが、第2段のエンジンは、H2Aで実績がある技術を踏襲している。H3向けに新規開発した技術に問題があったのかどうかが注目される。
 一方でロケットはさまざまな技術を組み合わせた巨大で複雑なシステムだ。今回のようにロケット全体を新たに設計し直したシステムでは、どこかに思わぬ落とし穴が潜んでいることがある。個別の部品の試験はできても、打ち上げは一発勝負のため、システム全体を通した問題の洗い出しをする機会が得にくいという不利な点がある。
 世界の宇宙ビジネスに挑むため、H3はH2Aの半分となる50億円ほどの打ち上げ費用を目標に掲げる。欧州のアリアン6や、米スペースXのファルコン9といったロケットがライバル。特にファルコンは機体の着陸や部品の回収でさらにコストを低減しているとされる。失敗を乗り越えて低価格化が実現できれば、H3が世界の市場をリードする一員となる希望は残る。
 今回は搭載していた地球観測衛星だいち3号が失われた。H3では政府の準天頂衛星や情報収集衛星の打ち上げが予定され、日本の宇宙インフラへの影響が気になる。
 またH3は、米国が主導する月探査の「アルテミス計画」で物資を輸送する役目も担う。計画への影響が懸念されるが、国際的な責任を果たすためにも失地回復を果たしてほしい。
 H3にはこのように期待が大きい。失敗に屈することなく、宇宙先進国の一角として日本の底力を見せ、次こそは打ち上げを成功させ、世界の主要ロケットと肩を並べる地位を確立することを期待している。
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 さいだ・ともや 1976年、前橋市生まれ。東北大院修了。工学博士。JAXAで人工衛星プロジェクトに従事。日本総合研究所の宇宙ビジネスコンサルタントを経て独立。

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