放送法解釈変更 「行政文書」主張丸のみ ちらつく安倍政権の体質【表層深層】
放送法が掲げる「政治的公平」の解釈変更を巡り、立憲民主党の小西洋之参院議員が公表した文書はれっきとした行政文書だと判明した。松本剛明総務相が、小西氏の主張を事実上丸のみした異例の対応。ただ、内容の正確性は一部留保した。特定番組への圧力を狙った可能性がある当時の安倍政権の対応について検証が求められそうだ。
フォントも精査
「全て総務省の行政文書だと確認できた」。７日午前、松本氏は記者会見冒頭で切り出すと、事実関係を淡々と認めた。
総務省は午後、ホームページに文書を掲載。小西氏が２日に明かした７８ページと同一内容だった。公文書公開で散見される「黒塗り」は意味がないとして一切施さなかった。
松本氏はそれまで公開に前向きな姿勢を見せてこなかった。６日の参院予算委員会でも「作成者、経緯、文書の体裁、フォントも含め詳しく精査している」と時間をかける意向をにじませる。
しかし政権には当初から「恐らく本物」との見方があった。官邸筋は「２代前の内閣の話」と警戒感が薄く、３日には参院の与党国対筋が「さっさと表に出せばいい」と政府に伝えた。予算案審議への影響を心配した。
姿勢を転じて行政文書と認定した松本氏。「正確性が確認できない物、作成経緯が判明しない物がある」と内容には一定の留保がある点を強調した。真相解明への取り組みを聞かれると「８年経過していて課題がある」と言葉を濁した。
捏造問答
一気に注目を集めたのは高市早苗経済安全保障担当相。文書が記す、２０１４～１５年当時の礒崎陽輔首相補佐官や総務省の放送法を巡るやりとりの中に総務相として登場する。３日の予算委では、自身に関する記述を「捏造だ」と言い切った。
政治的公平の「放送事業者の番組全体を見て判断」との従来解釈を「補充」し、１５年５月に「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁した当事者だ。
７日の会見では「作成者が書かれていない、日時が特定できない、内容が不正確だ」と繰り返す。記者から「捏造という表現からトーンを弱めたのか」と質問されるまで「捏造」の言葉を使わず、変化をうかがわせた。
３日、小西氏から「捏造でなければ閣僚、議員を辞職するか」と問われた高市氏は「結構ですよ」と即答している。７日の会見で進退を聞かれたが「完全に正確な物だと、相手も立証しなければならない」と責任を小西氏になすり付けた。
「一般論として、捏造した内容を行政文書にすることはあるのか」。７日、立民の山井和則国対委員長代理が省庁ヒアリングで単刀直入にただした。総務省の担当者は「ありません」と答えるほかなく、出席議員から失笑が漏れた。
行政文書と認定されたことにより、当時の安倍内閣のメディアに対する姿勢が改めて問われる。文書からは、衆院解散直後のタイミングで礒崎氏がＴＢＳ系「サンデーモーニング」を狙い撃ちしようと総務省に働きかけた経緯が浮かぶ。
１５年の高市氏の法解釈答弁は、集団的自衛権行使に踏み出す安全保障関連法案審議を控えた時期。文書は「安保法制とかやるのに大丈夫か」との高市氏発言も記録する。
安倍政権では森友、加計学園問題や桜を見る会など公文書の問題が噴出。森友学園を巡っては財務省が決裁文書を改ざんし、関連して職員の自殺まで引き起こした。
岸田文雄首相は７日の衆院本会議で「放送法は従来の解釈を変更することなく補充的な説明を行ったと承知している」と答弁し、現在も継承しているとの立場を示した。小西氏は総務省職員から文書をこう託されたという。「国民を裏切る行為を見て見ぬふりはできない。国民の手に放送法を取り戻してほしい」
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