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命守る「100回に1回」への備え、北海道・三陸沖の後発地震に注意情報 東日本大震災を教訓に導入、「すぐに逃げられる準備を」

 北海道と東北の太平洋沖にある日本海溝・千島海溝で大きな地震が起きたとき、その後の巨大地震への備えを呼びかける「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用が2022年12月に始まった。注意情報の発表は2~3年に1回程度と見込まれるものの、1週間以内に実際にマグニチュード(M)8級の巨大地震が起こる確率は「100回に1回」程度。国は注意情報発表後に、事前の避難や店舗の休業、交通機関の運休などは求めず、地域住民は普段通りの生活を続けるという。これでは「何に“注意”すればいい?」「何も行動しなくていいの?」と疑問がわく。その答えは東日本大震災の苦い教訓の中にあった。(共同通信=筋野茜)

巨大な後発地震への注意を呼びかけるポスターを見つめる人=2022年12月16日、青森市
巨大な後発地震への注意を呼びかけるポスターを見つめる人=2022年12月16日、青森市
東日本大震災で避難所となった宮城県気仙沼市鹿折中の体育館=2011年3月13日
東日本大震災で避難所となった宮城県気仙沼市鹿折中の体育館=2011年3月13日
北海道・三陸沖後発地震注意情報のイメージ
北海道・三陸沖後発地震注意情報のイメージ
東日本大震災の津波で被害を受けた岩手県陸前高田市の中心部=2011年3月12日
東日本大震災の津波で被害を受けた岩手県陸前高田市の中心部=2011年3月12日
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象市町村
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象市町村
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象182市町村
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象182市町村
注意情報発表時に取るべき主な行動
注意情報発表時に取るべき主な行動
巨大な後発地震への注意を呼びかけるポスターを見つめる人=2022年12月16日、青森市
東日本大震災で避難所となった宮城県気仙沼市鹿折中の体育館=2011年3月13日
北海道・三陸沖後発地震注意情報のイメージ
東日本大震災の津波で被害を受けた岩手県陸前高田市の中心部=2011年3月12日
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象市町村
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象182市町村
注意情報発表時に取るべき主な行動

 東日本大震災も「後発地震」だった
 そもそも「後発地震」という言葉を聞いたことがない人が多いかもしれない。一般的には、先に発生した地震を先発地震、引き続いて起こる地震を後発地震と呼ぶ。注意情報を運用する内閣府によると、この制度ではM7クラスの先発地震の後に起こる、より規模の大きな地震のことを指す。
 2011年3月11日の東日本大震災(M9・0)も、後発地震だったことをご存じだろうか。
 2日前の3月9日午前11時45分ごろ、同じ三陸沖を震源とするM7・3の地震があった。今なら注意情報が出されるケースだ。
 当時の共同通信の報道によると、最大震度は5弱で、岩手県で最大55センチの津波を観測。宮城県気仙沼市や岩手県大船渡市などでカキやコンブの養殖いかだが一部流される被害が出たものの、死者はなかった。
 この地震の後で気象庁は、揺れが大きかった地域に「今後1週間程度、最大で震度4程度の余震の恐れがある」と注意を呼びかけたが、後発地震への切迫感は、住民に伝わらなかった。
 11日午後2時46分に東日本大震災(最大震度7)が発生。太平洋側の沿岸部を大津波が襲い、約2万2千人の尊い命が奪われた。多くの人が自宅や仕事を失った。
 注意情報は、このときの経緯を教訓に、有識者検討会を経て、2022年12月に導入された。対象となったのは北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の7道県182市町村だ。
 巨大地震の震源域とされる日本海溝・千島海溝沿いの一帯は比較的地震が多く、過去約100年間のデータから、M7クラスの地震が2~3年に1回起こるとされる。注意情報も同じ頻度で出る見通しだ。
 M7以上の地震が発生したら、揺れの規模を精査し、発生から2時間後をめどに気象庁と内閣府が合同で記者会見を開いて注意情報を出す。その後、1週間地震がなければ「特に注意すべき期間は終了した」と発表する。
 注意情報の基準は「震度」ではなく「マグニチュード」
 注意情報が出る基準となる「マグニチュード」は地震の大きさ(規模)を表す。マグニチュードが1上がると、地震のエネルギーは約32倍、2上がると約1000倍になる。これに対して「震度」は私たちが生活している場所での揺れの強さを計る物差しだ。
 マグニチュードが大きくても、震源地から離れていると震度が小さくなる。住民が大きな揺れを感じなければ、後発地震やそれに伴う津波への警戒につながらない恐れがある。
 東日本大震災で震度6弱を記録し、津波が市街地を飲み込んだ岩手県陸前高田市も、2日前の先発地震は最大震度4だった。
 津波で両親を失った自営業の女性(54)は「三陸は地震が多いから、震度4くらいでは『またか』って感じで、私も両親もその後への備えをしていなかった。まさかすぐに大震災が来るなんて…」と振り返る。
 ▽パニックにならず、避難場所や備蓄の確認を
 実際に注意情報が出たら、住民はどう行動すればよいのか。一番大切なのはパニックにならないことだ。いざという時にすぐ逃げられる準備をしよう。
 避難所の開設状況や地震発生時の津波警報を伝える自治体の防災行政無線、交流サイト(SNS)、テレビなどの報道に注意する。携帯電話の着信音やラジオは、緊急情報に気付きやすくするために音量を上げておく。充電も忘れずに。
 避難場所や経路を確認し、水や食料の備蓄、家具の固定など、日頃の備えも再点検する。前もって「災害用伝言ダイヤル」など、家族との連絡手段も決めておこう。電話が不通になっても、インターネットがつながれば、通話アプリやSNSが使える可能性がある。
 地震が発生したら、津波を避けるため、沿岸部ではすぐに高台へ避難する必要がある。寝る時は家の中で最も安全な場所を選び、逃げるまでの時間を短縮するため、服を着ておく。薬など必要な物が入ったリュックサックや防寒具、靴(冬場はブーツや長靴)は、枕元に準備していたほう安心だ。
 冬の北海道や東北は、積雪や凍結で避難に時間がかかったり、避難先でも厳しい寒さが続いたりすることも考慮に入れてほしい。
 汚れたコンタクトで結膜炎に
 筆者が宮城県に赴任していたとき、東日本大震災の被災者から聞いた忘れられないエピソードがある。
 宮城県気仙沼市の男性(40)は、仕事でマイカーを運転中、背後に押し寄せる津波に気づき、車を乗り捨てて近くの山に上った。そこから避難所に移っての生活が始まったが、着の身着のままで逃げたためコンタクトレンズの替えがない。水道も復旧しておらず、雨水で洗っているうちに結膜炎になってしまった。医師もおらず、うさぎのように赤い目でまぶたを腫らしたまま、ボランティアの人にもらった度の合わない眼鏡で1カ月以上を過ごしたという。
 極度の近視でコンタクトを着用している筆者は、男性のアドバイスに従って、普段から必ず手荷物の中に眼鏡を入れて持ち歩くようにしている。人それぞれ、必要なものは異なる。日頃からチェックしておくことをおすすめしたい。
 「空振り」ではなく「素振り」と考えて
 南海トラフ巨大地震では、今回の注意情報のモデルとなった臨時情報を導入している。危険性が特に高い「巨大地震警戒」が発表されると、津波被害が想定される地域の住民に1週間の事前避難を求める。
 日本海溝・千島海溝の地震はメカニズムに不明な点が多く、事前避難の導入は見送られた。後発情報の精度設計に関わった専門家も「極めて不確実な状況の中で発信される」と説明する。
 内閣府の想定通りなら、注意情報は2~3年に1回発表され、M8級の後発地震が起こる確率は100回に1回程度。何度も外し続ければ「おおかみ少年」になって、住民の避難行動が鈍るのではないかという懸念の声が上がるのも無理はない。
 ただ政府の想定では、ひとたび日本海溝・千島海溝でM9級の地震が起きれば、北海道や岩手県の一部に高さ30メートル近い津波が到達し、最大19万9千人が死亡するとされている。
 内閣府の担当者は「情報が外れる可能性は高い」と認めつつ、野球に例えてこう力説した。「もし情報が当たらなくても『空振り』ではなく、いつか来る日のための『素振り』と考えて、命を守る備えを進めてほしい」
 首都直下地震、南海トラフ巨大地震、中部圏・近畿圏直下地震…。今後、全国のどこで巨大地震や大津波が起こってもおかしくはない。今回の注意情報の導入をきっかけに、他の地域でも、各家庭で地震への備えが十分なのか見直してもらいたい。

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