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視標「徴用工巡り韓国が解決案」 過剰債務への対応課題 政策、市場の透明性高めよ 伊藤忠総研チーフエコノミスト 武田淳

 中国の2022年10~12月期の実質経済成長率は前年同期比で2・9%へ減速し、22年通年では3・0%にとどまり、政府目標の5・5%を大きく下回った。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑える「ゼロコロナ政策」下で、多くの都市が封鎖され、12月に同政策が事実上解除された後は感染が爆発し、個人消費が冷え込んだ。

伊藤忠総研チーフエコノミストの武田淳氏
伊藤忠総研チーフエコノミストの武田淳氏

 加えて、高インフレに見舞われた米欧の経済減速で輸出が落ち込み、不動産投資の低迷は続き、インフラ投資が息切れするなど、需要の総崩れにより景気は停滞した。
 今後の景気を見通す上で最大の注目点は、言うまでもなくコロナ感染の行方である。
 感染者数の公表を中止したため、感染状況を正確に把握できないが、地方政府の報告や各種調査の結果から判断する限り、都市部では昨年末時点で人口の半数程度が感染したようである。北京大学は今月11日までに、総人口の6割強にあたる約9億人が感染したと推計している。
 一般的に感染者数が人口の6~7割に達すると、集団免疫が獲得され、感染は収束するとされる。この推計が正しいとすれば、近く感染が全国的に収束し、人の往来が平時のレベルまで活発化して、冷え込んでいた個人消費が急速に回復するという、最も楽観的なシナリオの実現可能性が高まる。
 ただ、感染・免疫獲得に理解を示す若い人が多い都市部と異なり、医療体制が脆弱な農村部では感染への警戒感が根強く、経済活動の正常化に時間がかかると考えるのが現実的である。
 多くの先例が示す通り、いったん感染が収束しても、変異株の出現などにより感染拡大が繰り返される可能性も十分にある。個人消費が正常化する時期は、年後半と考えておくのが適当であろう。
 輸出の早期回復も期待できそうもない。米欧はインフレ沈静化のため、景気が後退するのを覚悟の上で利上げを続けており、双方の景気は今後さらに悪化し、中国からの輸出も減少が続こう。
 米欧に比べ景気の底堅さが期待される日本や東南アジア諸国向けは減らないとしても、全体の3分の1を占める米欧向けの減少で、輸出産業は停滞し、設備投資にも悪影響を及ぼすだろう。
 政府はインフラ投資を再拡大させて、景気の下支えを図るとみられる。しかし不動産投資は、販売が落ち込んでいる住宅業者に対する消費者の不信感が払拭されず、回復が遅れており、固定資産投資(公共投資、設備投資、住宅投資の合計)による景気の押し上げにも多くを期待できない。
 今年の中国経済は、少なくとも年前半は緩慢な回復にとどまり、成長率は通年で4%台半ば程度となり、コロナ前の6%台に遠く及ばないと予想される。
 成長鈍化は経済の成熟化や少子高齢化の結果でもある。中国経済の課題は、地方政府を中心とした過剰債務問題と投資先としての魅力低下を背景とする資金流出への対応である。
 債務の膨張を抑えるためにも海外からの投資拡大が望まれ、そのために政策や市場の透明性と政策の予見可能性を高め、民間企業の懸念や制約を取り除くことが求められよう。
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 たけだ・あつし 1966年生まれ。大阪府出身。大阪大学工学部卒。第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行後、伊藤忠商事などを経て現職。専門は日中韓の政治経済情勢や世界全体のマクロ経済動向の分析。

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