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岸田首相のトリクルダウン発言 アベノミクス修正を警戒 安倍派、日銀人事注視

 アベノミクスの理論「トリクルダウン」が起きなかったとした岸田文雄首相の発言を巡り、自民党安倍派が警戒を強めている。経済成長を重視するアベノミクスの修正につながりかねないためだ。安倍派は党内最大派閥。日銀総裁人事を注視しており、首相発言は経済路線を巡る党内対立に発展する可能性をはらむ。

経済政策を巡る岸田首相の主な発言
経済政策を巡る岸田首相の主な発言


安倍氏不在
 年頭記者会見の首相発言が伝えられた4日午後、安倍派議員や経済官僚らはざわついた。
 「この30年間、企業収益が伸びても、期待されたほど賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった」。原稿を事前に用意した冒頭発言。賃上げの重要性を訴える文脈で言及し「私はこの問題に終止符を打つ」と力を込めた。
 波紋を広げたのは「滴り落ちる」を意味するトリクルダウンがアベノミクスとセットで使われてきたからだ。金融緩和、財政出動と規制緩和などによる成長戦略を推進。経済活性化で大企業や富裕層が潤えば、その恩恵が社会全体に広がると成長路線を説いてきた。
 首相周辺は「小泉政権は念頭に置いたかもしれないが、アベノミクス批判は絶対にしない」と懸命に火消しに走るが、安倍派議員は早速「経済政策を転換するのか」「腹立たしい」と反発する。
 安倍派にとっては、安倍晋三元首相不在という事情も大きい。昨年12月に決まった防衛費増額に伴う増税方針や、少子化対策を巡る甘利明前幹事長の消費税増税発言など、岸田政権が財政規律重視へかじを切っているとの疑念がじわじわと広がる。

未来永劫
 首相は就任前にも同様の認識を示していた。
 2020年9月の著書「岸田ビジョン」で「未来永劫、アベノミクスでいいのか」「アベノミクスが始まった当初、トリクルダウンが盛んに言われた。しかし、残念ながら、トリクルダウンの現象はまだ観察されていない」と指摘。企業間や都市と地方などの格差解消に取り組むよう唱えた。
 同月の自民総裁選では菅義偉前首相に惨敗したが、翌21年9月の総裁選で中間層への分配強化や格差是正を主張したのも、同じ政策の流れだった。
 首相就任後は「成長も分配も」と成長戦略を強調。「分配」を使う頻度を減らした。野党からの批判を意識、安倍派への配慮もあったとみられる。

迫る任期
 首相は昨年末、安倍氏が求めた防衛力強化に道筋を付けた。今回のトリクルダウン発言には、今年は自ら掲げる「新しい資本主義」に軸足を移したいとの思いがにじむ。
 経済政策で目前に迫るのが日銀総裁人事。黒田東彦総裁の任期は4月8日まで。黒田氏はアベノミクスの「異次元の金融緩和」を推進してきただけに、人事は次の政策の方向性を示す象徴になる。
 安倍派幹部は警告を発する。「総裁に誰を選ぶのか。場合によっては安倍派と全面対決になる」

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