あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 読み応えあり

GX実行会議 危機前面、原発回帰へ 福島で批判、脱炭素疑問も【表層深層】

 岸田文雄首相が、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、東京電力福島第1原発事故以降の原発政策を転換した。エネルギー危機を前面に掲げ、新規建設、長期運転に踏み込んだ。ただ、脱炭素への道筋は不確かで、核のごみの行き先も見えない。「グリーン」の名にふさわしいのかという疑問を残したまま、原発回帰に突き進む姿に、福島の住民から批判の声が上がる。

東京電力福島第1原発。右から1号機、2号機、3号機、4号機=8月
東京電力福島第1原発。右から1号機、2号機、3号機、4号機=8月
原発活用策の課題
原発活用策の課題
東京電力福島第1原発。右から1号機、2号機、3号機、4号機=8月
原発活用策の課題


政治決断
 「経済、社会全体の大変革だ」。岸田氏は22日、GX実現へ向けた政策の重要性を強調した。
 GX実行会議は省庁横断で脱炭素を検討するため設置されたが、首相は早々に経済産業相を担当に任命。7月の初会合で、原発活用に向け「政治決断が求められる項目の明示を」と打ち上げた。
 2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルが、いわば国際公約になると、経産省は「原発利用が不可避」との判断を強めた。さらにロシアのウクライナ侵攻を背景に電気、ガスの料金が高騰。首相を政策面で支える筆頭格の秘書官は、事務次官経験者の嶋田隆氏が務めていた。経産省は官邸に働きかけ、短期間で政策を推し進めた。
 政府はこれまでの上限60年を超える運転期間延長のほか、廃炉を対象に次世代型原発へ建て替える方針だが、ハードルは高い。既存原発の改良型で、最も有望とされる「革新軽水炉」でも、実用化は30年代以降だ。建設費は膨大で、海外では1兆~2兆円となる例もある。政府は建設費を回収できるように支援策を検討するが、電力業界の熱意は高くない。「回収だけでなく、利益を見込めなければ投資できない」(電力関係者)

GXのG
 脱炭素への貢献という前提にも異論がある。東北大の明日香壽川教授(環境エネルギー政策)は「温室効果ガス削減量あたりの費用は再生可能エネルギーより高い。事故リスクや稼働の不安定さを踏まえると最悪の選択肢だ」と全面否定する。
 さらに原発は高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を生み出す。地中深くに埋め、数万年以上、隔離する必要があるが、処分場が見つからない。
 「経済の立て直しにグリーンを使うというのは菅義偉前首相からの路線だけど、環境省がかすんだのは明らか。本当は再エネ拡大で押し返さないといけない」と、ある政府関係者はこぼす。GX実行会議がスタートしてからの議論は完全に経産省ペースで進んでおり「これではGXの『G』は原発、と言われても仕方がない」と漏らした。

責任誰が
 原発事故から11年以上が過ぎた今でも、福島県では7市町村に原則立ち入り禁止の帰還困難区域が残る。事故で避難を余儀なくされた住民に、「原発活用」のかけ声はむなしく響く。
 「危険な原発を長い期間使うのは疑問。廃炉や賠償も終わっていない。数十年後に事故が起きたら誰が責任を取るのか。犠牲になるのは地域住民だ」。福島県楢葉町から避難し、同県いわき市で暮らす主婦金井直子さん(57)は批判した。
 11月に、11年8カ月ぶりに帰還した同県双葉町の志賀隆貞さん(73)は「事故前は危険さが分からなかった。二度とあんなことを起こさないよう、建て替えには反対」と語気を強める。「脱炭素なら害の少ない発電方法がいくらでもあると思う。原発に頼るのはおかしい」と訴えた。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む