あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 読み応えあり

原発運転期間見直し 規制と推進、そろう足並み 教訓形骸化、スピード決着【表層深層】

 原子力規制委員会が、原発の60年を超える運転延長を認める新制度案をまとめた。議論は原発活用を目指す経済産業省と歩調を合わせて進み、実質3カ月弱のスピード決着となった。規制委発足から10年。東京電力福島第1原発事故の教訓「規制と推進の分離」は完全に形骸化し、岸田文雄首相が進める原発回帰の「両輪」へと変容した。

国内で唯一40年を超えて運転している、福井県美浜町の関西電力美浜原発3号機
国内で唯一40年を超えて運転している、福井県美浜町の関西電力美浜原発3号機
原発運転期間見直しまでの経過
原発運転期間見直しまでの経過
国内で唯一40年を超えて運転している、福井県美浜町の関西電力美浜原発3号機
原発運転期間見直しまでの経過


悲願
 2020年7月、原発推進派の自民党議員らは色めき立っていた。各地の原発の再稼働が進まない中、悲願だった運転期間延長に向けた兆しが見えたからだ。
 電力会社と原発メーカーでつくる業界団体が規制委との意見交換を2年越しで実現させ、停止中の重要機器は劣化しないとして運転期間からの除外を提案した。60年超え運転に道を開く内容だ。規制委は劣化しないことは認めた上で「運転期間は政策判断で、規制委が意見する事柄ではない」との見解を決定した。
 しかし「原則40年、最長60年」の運転期間を定めた原子炉等規制法は規制委の所管。規制委の更田豊志委員長(当時)は、この見解を盾に「運転期間は政治の判断だ」「(運転期間をカウントする)時計の針は止めない」と国会などで繰り返し、自ら法改正に踏み出す意思はないと強調した。

政治判断
 見解が出た翌月の20年8月には、安倍晋三元首相が辞意を表明し、政権の求心力は低下。後継の菅義偉前首相が温室効果ガスの実質ゼロ目標を打ち出すと、原発活用への期待は再燃した。
 しかし将来の電源構成などを示すエネルギー基本計画の改定では世論に配慮し、「原発の依存度低減」の文言に手は加えず、新増設や運転延長にも触れなかった。
 転機となったのは岸田政権発足後の今年2月、ロシアによるウクライナ侵攻だった。岸田氏は「原発の最大限活用」へかじを切り、関係省庁に年末までの検討を指示。福島第1原発事故を教訓とした政策を大転換する「政治判断」だった。

変質
 軌を一にして規制委の変質が進む。3月、発足からのメンバーで、続投の見方もあった更田氏が9月に委員長を退き、山中伸介委員に交代する人事案が国会に示された。事務局の原子力規制庁も長官、次長、原子力規制技監のトップ3を初めて経産省出身者が占めた。
 山中氏は就任3日目の9月28日、首相の指示を受けて原発活用策の議論を始めたばかりの経産省からの意見聴取を提案。「運転期間の定めは見直し、(別の)法律で設計される方針でいいでしょうか」。原子炉等規制法から運転期間を定めた条文を切り離し、経産省に委ねる議論を主導した。
 独立性の確保を掲げて発足した規制委が、経産省と二人三脚で制度改正を推し進める構図―。規制委内部からも「完全に失敗だった。推進側と両輪でやっていると言われても仕方ない」との声が漏れる。ある自民議員は「規制庁はずっと委員長の顔色を見ていた。更田体制ではここまでスムーズに行かなかっただろう」と、“重し”が取れたことで経産省との調整が加速したとみる。
 「見直しで規制は厳しくなる」。山中氏は強調するが、老朽原発の点検項目など具体的な規制手法の検討は先送りし、実態は伴っていない。史上最悪レベルの事故からまもなく12年。今も続く福島第1原発の廃炉作業や被災者の避難生活を尻目に、新制度は経産省と電力業界への配慮優先で走り出した。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む