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社説(3月10日)東日本大震災13年 津波への備え念入りに

 大津波で東北地方の沿岸が壊滅し、2万人以上が犠牲となった東日本大震災から11日で13年。元日に起きた能登半島地震の津波映像を見て、東北の惨状を思い出した人は少なくなかったのではないか。
 能登半島地震では、東日本大震災以来となる「大津波警報」が発表された。現地調査をした気象庁の推定で、痕跡高から能登半島北部の石川県能登町で4・7メートル、遡上[そじょう]高から新潟県上越市で5・8メートルの津波の襲来が分かった。
 津波高が2メートルを超えると、木造住宅が流失するリスクが高まるといわれる。押し寄せる黒い波には、やはり底知れぬ恐ろしさがある。能登半島地震で改めて津波の威力と怖さを突き付けられた思いだ。

 南海トラフ地震が起きれば数分以内に大津波が襲来する危険がある。浸水被害が想定される地域では津波対策を念入りに確認し、大きく揺れたら直ちに高台に逃げることを肝に銘じておきたい。
 防潮堤や港湾、交通網、災害公営住宅の整備、集落の高台移転など、東日本大震災を受けたハード面での復興事業は、岩手と宮城両県でほぼ終了した。東京電力福島第1原発事故によって復旧が遅れた福島県沿岸部でも徐々に除染が進み、居住制限区域が緩和されている。
 今後は「心の復興」などソフト面での支援が重要性を増す。産業振興による「なりわい」づくりも重要だ。ただ、基幹産業の水産業は原発処理水の海洋放出が影を落とす。国内での風評被害は聞かないが、中国が輸入を禁止するなど原発事故がいまだに足を引っ張っている印象だ。
 復興庁のまとめでは依然、約2万9千人が避難したままになっている。原発事故の被災地域も含めて住民帰還を急ぐ必要がある。避難生活が長引いて避難先に生活拠点ができた人たちは、そちらに根付いて戻ってこないだろう。
 仙台市のベッドタウン化している宮城県名取市などを除けば、被災地域では人口流出が続く。復興に必要なのは人材であり、特に若者の力は欠かせない。必要な人材を確保できなければ、政府が唱える「新しい東北」の創造や持続可能な地域づくりは難しい。
 時間の経過とともに教訓や記憶が薄れることも気がかりだ。未曾有の災害を踏まえ、津波の恐ろしさや原発事故の厳しさを後世に語り継ぎ、被災地だけでなく全国の将来世代が再び過酷な体験をしないようにしなければならない。
 その意味で、宮城県南三陸町で被災した旧防災対策庁舎の保存が決まったことは歓迎したい。旧庁舎の保存か解体かで町内を二分する議論になったが、県が預かる形で管理し冷却期間を置いていた。

 町は今後、県に返還を求めて恒久的に管理する方針。鉄骨造り3階建ての庁舎屋上は高さ約12メートル。そこに押し寄せた津波は約15メートル。アンテナポールや手すりにしがみついて助かった職員もいたが、ここで43人が犠牲になった。中には防災無線を使って、被災直前まで町民に避難を呼びかけ続けた女性職員もいた。
 そのため、遺族から「見るのがつらい」などと解体を求める声が上がっていた。遺族らの声はもっともだが、震災遺構は津波の脅威と悲惨な記憶を明確に物語る。現地を訪れて鉄骨がむき出しになった旧庁舎を見れば、津波の恐ろしさは容易に想像できるだろう。さらなる犠牲を防ぎ、悲劇を繰り返さぬために、防災教育に活用してほしい。
 東日本大震災を受け、静岡県は3月上旬に津波対策推進旬間を設けている。例年、沿岸各地では防災設備や備品、避難路などの点検のほか、避難訓練が行われる。
 今年の訓練統一実施日は10日。いざという時に速やかに避難できるように点検や訓練を重ね、浮かんできた課題に対応してもらいたい。
 能登半島地震の際、富山湾海底では地滑りが起きて、波の動きが複雑化したとみられている。同様の地滑りは駿河湾でも起きる可能性がある。あらゆる事態に対応する備えが重要だ。

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