あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 読み応えあり

【ロシアのウクライナ侵攻3年目】鍵握るエネルギーと食料 国際社会は辛抱強い支援を 慶応大教授 広瀬陽子

 ロシアによるウクライナ侵攻は3年目を迎えようとしている。

慶応大の広瀬陽子教授
慶応大の広瀬陽子教授

 ロシアは日米欧の制裁下にありながら、国内経済を戦時体制で回し、対ロ非制裁国に資源などを安く大量に売って収入を確保。並行輸入や、イラン、北朝鮮など同様な被制裁国との軍事協力で現状にしたたかに順応している。短・中期的には時間はロシアに味方をしているように見える。
 他方、ロシアが資源と食料を武器にしたことで、世界中でエネルギー価格の高騰やインフレ、食料危機が深刻な問題となった。エネルギー価格上昇は、安いロシア産石油を購入して自国消費に充て、自国生産の資源を欧州に高く売りつけるサウジアラビアの錬金術などに拍車をかけている。
 ロシアの国営原子力企業ロスアトムが世界の原発市場で大きなシェアを占め、その原発がグローバルサウス(新興・途上国)に多くあることから、原発は制裁対象になりづらい事情もある。
 またロシア、ウクライナは大麦、小麦、家畜の飼料となるトウモロコシの輸出大国であり、それらの流通に影響が出ている。
 ロシアは大量の穀物輸出で暴利をむさぼる一方、ウクライナの海路による輸出を妨害。困ったウクライナは陸路で輸出したが、近隣の欧州連合(EU)加盟国にも安いウクライナ産農産物が流入した。近隣諸国は国内農家にダメージを与えると反発し、ウクライナとの間に緊張関係を生むことにもなった。
 飼料不足により、世界の食肉や乳製品の価格は上昇した。またロシアとベラルーシは肥料輸出大国でもあり、世界の肥料不足も深刻となって農業を逼迫させた。
 このように、世界各地でエネルギーと食料の安全保障が、ロシアに脅かされている。それらは人々の日常生活に直結しており、世界の人々のいわゆる「ウクライナ支援疲れ」を悪化させることにもつながっている。
 欧州については、ウクライナ支援の熱量は全体としてまだ高い。特に支援に及び腰だったハンガリーの賛同も得て、2月1日にEUがウクライナに対する500億ユーロ(約8兆円)相当の支援パッケージを承認したことの意義は大きい。
 だが、額で群を抜いていた米国のウクライナ支援の停滞は戦況にとって非常に厳しい。今年は選挙イヤーであり、米大統領選挙を中心に世界の選挙結果がウクライナ支援の動向に与える影響も大きそうだ。
 ウクライナ国内の連帯と士気の維持も戦況に大きく影響する。例えば、ゼレンスキー大統領のザルジニー軍総司令官解任など軍と政治の亀裂はウクライナの弱みになり、国際的な支援を受ける上でマイナス要素になる。ロシアの情報戦にも利用される。
 先に短・中期的には時間はロシアに味方すると書いたが、戦争の一層の長期化はロシアにとっても厳しい展開を生む。ロシアからはITや金融部門など、有能な若者が多く海外に流出した。戦時経済は一見活況を呈しているとはいえ、人々の生活は厳しく、明るい未来は展望できないのだ。
 現状では、まずウクライナが国内の一体化をより強固にすることが急務であり、日本はじめ国際社会はわが事と認識してウクライナ支援を辛抱強く続けることが肝要だ。
   ×   ×
 ひろせ・ようこ 1972年東京都生まれ。東京大法学政治学研究科博士課程単位取得退学。博士(慶応大)。専門は国際政治、旧ソ連地域研究。「ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略」など著書多数。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む