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社説(3月9日)新興企業の支援 地域活性化の起爆剤に

 革新的なデジタル技術や新しい発想で社会課題を解決し、企業として急成長を遂げる。そんなスタートアップと呼ばれる新興企業の支援や育成に取り組む地方自治体が増えている。若い企業の活力を地域経済の発展の起爆剤にしたい。
 静岡県は2024年度当初予算案に、県内を舞台に実証実験を行う首都圏スタートアップなどへの助成や、高校生のビジネスアイデアを事業化する費用などを計上した。元気なスタートアップを本県に呼び込むのと同時に、未来の起業家を大切に育てていくことが欠かせない。
 浜松市は全国初の取り組みとして、民間金融機関のベンチャー向けローンで調達した資金の同額を交付する「ファンドサポート事業」の予算を盛り込んだ。19年度に始めたベンチャーキャピタルの出資額と同額を交付する既存枠を含めた事業費は2億8400万円に上る。
 実績の乏しい企業に、公金をリスクマネーのように投じることには議論もあろう。当局は税金を投入した成果についてしっかりとした検証と説明が求められる。
 「ユニコーン」と呼ばれる企業価値の高い新興企業が日本に少ないのは、前例のない新事業に挑戦する起業家に、資金が集まりにくいことが背景の一つにある。
 金融機関は伝統的に安全志向が強く、融資の際に担保や個人保証を求めるケースが多かった。これからの金融機関は目利き力を発揮して地域経済の発展に資する有望な企業を見いだし、リスクをとって資金供給する必要がある。
 ほかにも、起業家精神(アントレプレナーシップ)の醸成不足や、終身雇用に代表される日本の雇用慣行など構造的な要因が指摘される。
 教育機関は、進路の選択肢を広げるためにも、ゼロから事業を興すアントレプレナーシップ教育やリーダーシップなどを鍛える人材育成にさらに力を入れてほしい。政府は働く人が新しい挑戦をしたり、失敗しても再挑戦・就職したりしやすいより柔軟な労働環境を目指すべきだ。
 本県は元来、スズキ、ヤマハなどの大企業を生んだベンチャー気質にあふれた土地柄である。資金力のある企業は出資や、新興企業の技術を新しい事業に活用するなどして、起業家の成功が後に続くように応援してもらいたい。
 起業家たちが集い、周りの支援などで成長、発展していく産業生態系は「スタートアップエコシステム」と呼ばれる。若者たちが何でも挑戦し、努力によって夢をかなえることのできる環境を、金融、教育機関、企業など地域が一体となって支えていかなければならない。

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