【河川津波】4キロ内陸で犠牲、堤防限界 識者「避難計画整備を」
国が河川津波対策を強化する契機になったのが東日本大震災だ。宮城県では川を4キロ以上さかのぼり、津波の浸水想定区域でない内陸部で多数の犠牲者が出た。能登半島地震でも遡上が確認されている。ただ大震災級の巨大津波に対応した河川堤防や水門を整備するのには限界があり、専門家は「避難計画の整備が重要だ」と指摘する。
▽決壊
「命を守るはずの堤防がなぜ決壊したのか」。宮城県石巻市で河川津波に遭い、妻と母を亡くした木村清勝さん(79)は今も疑念が拭えない。
木村さんの自宅は1級河川・北上川の河口から約4キロの間垣地区にあった。地震後、河川堤防を越えた水が滝のように集落に流入。その幅がさらに広がった瞬間、堤防が約1キロにわたって決壊した。地区は浸水想定区域ではなかったが、住民の約4割に当たる68人の死者・行方不明者が出た。
児童・教職員計84人が犠牲になった同市の大川小も、河川津波に襲われた。児童らは内陸側の橋のたもとへ向け避難中、後ろではなく正面の北上川から来た水にのまれた。3年生の長女を亡くした只野英昭さん(52)は「河川津波の危険性がきちんと伝わっていないのでは」ともどかしさを抱える。
国土交通省北陸地方整備局によると、能登半島地震では新潟県上越市の1級河川・関川で、河口から5キロ付近に津波の痕跡が見つかった。下流部では浸水や、堤防など施設の損傷も確認されている。
▽非現実的
対策が重要な一方で、国による堤防や水門の改修事業が想定しているのは、比較的小さいレベル1(L1)の津波だ。最大級のレベル2(L2)は防げない可能性がある。
海岸から4キロ程度離れた徳島県北島町は、吉野川水系の二つの1級河川に囲まれている。東日本大震災級の津波も考えられる南海トラフ巨大地震では、ほぼ全域が河川津波で浸水する見通しだ。
国交省四国地方整備局によると、この規模の津波を防げる堤防の整備は「事業費や期間を考えると現実的ではない」という。L2の発生頻度は数百~千年に1回とされる。「避難などと組み合わせた減災を目指すのが合理的」(同省関係者)というわけだ。
このため町は、堤防の限界を見越して津波避難タワーなどを整備した。ただ2カ所しかないため、多くの住民は「近くの高い建物に逃げて待機してもらう」(町担当者)しかないのが現実だ。
▽避難
東北大の今村文彦教授(津波工学)も、巨大津波の河川遡上に関し「到達時間が早い場合、河口の水門を閉める作業が間に合わない恐れもある」とハード面の強化だけで防ぐことの難しさを指摘。自治体のハザードマップも活用して「川に近づかなくて済むような避難所、経路を用意するなどソフト面の対策を急ぐべきだ」と強調した。