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【危機的な少子化】企業や地域、意識転換を 出生率も過去最低見通し 日本総合研究所上席主任研究員 藤波匠

 2023年の外国人を含むわが国の出生数は75万8631人で過去最少となった。そのデータなどを基に、例年6月ごろに公表される日本人のみの出生数を試算すると、前年に比べて4万人以上少ない72万7千人になることが見込まれる。少子化は危機的な状況だ。

藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員
藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員

 さらに試算では、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す日本人の合計特殊出生率は、過去最低だった22年の1・26を下回ることは確実で、1・20前後に落ち込む見通しだ。
 大幅な出生減の背景には、新型コロナウイルス禍の下で顕在化した婚姻数の減少がある。婚姻数の減少は2~3年後の出生数に影響を与えることが知られており、20年以降コロナ禍によって婚姻数が急減した影響が、23年の出生数の大幅減少につながったとみられる。
 23年4月に国が公表した将来推計人口の出生数(中位推計)では、23年の日本人の出生数を73万9千人と見込んでいる。だが実績はこれを1万2千人ほど下回りそうで、少子化は想定を超えて加速している。
 将来推計人口では合計特殊出生率は30年に向けて徐々に回復し、その後長期にわたり1・30以上を維持する見通しとされた。しかし、足元の23年の実績値は中位推計を下回り、先行きも大きく下振れして推移する展開となることが懸念される。
 婚姻する人の割合の低下は、過去一貫して少子化の一因であったものの、筆者の分析では15年以降は出生数減少の主要因ではなくなってきていた。結婚しても少ない子ども数を希望したり、子どもは要らないと考えたり、出産への意欲の減退が目立っていた。
 ところが、コロナ禍で雇用の不安定化や人の出会いが極端に抑制されたことをきっかけに、婚姻数の減少が顕著となり、再び少子化の主要因に浮上してきたと言える。
 国が実施した出生動向基本調査では、一生結婚するつもりのない人の割合が上昇傾向にあり、とりわけ近年は女性でその傾向が顕著だ。社会進出が進む一方、結婚や出産によって男性よりも家事・育児の負担が増えがちで、それによってキャリアや収入などを失う可能性が高い女性の結婚意欲の低下が表面化したものだろう。
 現在国会に提出されている少子化対策関連法案は、子育て中の世帯の支援に力点が置かれており、出会いの機会を創出し、結婚を促す視点が十分盛り込まれているとはいえない。とはいえ、結婚支援については政府の取り得る方策に限りがあることも事実だ。
 まずは、若い世代に賃金上昇を通じて豊かな未来をイメージしてもらうことが重要になる。加えて、企業や地域に残るジェンダーギャップ(男女格差)やアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)を払拭することも欠かせない。
 子育てを「苦行」にしてはいけない。周囲のサポートや賃金上昇を図ることはもとより、男女が共に社会と家庭での役割を等しく担い、女性の家事・育児負担を軽減できる経済社会を構築するべきだ。政府のみならず、企業や地域社会も含めたあらゆる主体の意識の転換が必要とされている。
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 ふじなみ・たくみ 1965年神奈川県生まれ。東京農工大大学院修了。専門は地方政策、人口問題。著書に「なぜ少子化は止められないのか」など。

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