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大自在(3月19日)青春という字には

 〈青春という字を書いて横線の多いことのみなぜか気になる〉。俵万智さんの歌集「サラダ記念日」(1987年)にあるこの歌に共感したことを覚えている。俵さんは当時、公立高の若手国語教師。生徒と同じ目線の姉のようなまなざしが感じられる。
 横線とは、取り消し線か、大人からの横やりか、それとも若い心の奥のよこしまな思いか。下手の横好き、横道に入る…。横には負のイメージもある。青春を一直線という若者ばかりではないだろう。古い流行歌は「道にまよっているばかり」と歌った。
 「蛇の道はへび」とはよく言ったものだ。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る国会での受け答えに、こんなざれ歌をひねってみた。「正直と書けば直線直角で書きやすけれど行いがたし」。
 正直は仏教語の「方正質直[ほうしょうしつじき]」に由来し、昔から人の在り方として尊重されてきた。「正直の頭[こうべ]に神宿る」とも言い、正直者が神仏の加護を受け難局を乗り越えたり幸運をつかんだりする民話は多い。
 ところが現実では、正直者が損をしたり「ばか正直」と揶揄[やゆ]されたりする。「ドン・キホーテ」の作者セルバンテスの名言に「正直は最良の政策」がある。政治家が向き合うべきはカネではなく人なのだ。
 和歌には本歌取りという技法があると習った。そこで、もう1首。「青春という字を書いて横線のほかに人ありなぜか納得」。「春」の中の「人」は柔らかに左右にはらう。この春、一歩踏みだす皆さん、青春は人との交わりの中に。「月」「日」が照らしている。顔を上げて明るくいこう。

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