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大自在(3月5日)土を喰(く)らう

 ウグイスのホーホケキョが聞こえた。まだ少し下手だが。メジロは花から花へと飛び回る。寒さが緩んで、鳥もにぎやかになってきたようだ。
 「土の中で眠っていた虫たちがはい出し、待ちかねたように鳥がついばむ。自然の恵みを自ら求める鳥の食事は健全」と料理研究家の土井善晴さんがコラムに書いていた。食べ物がいいから、いい卵が生まれる。それが自然の摂理だという。
 きょうは二十四節気の啓蟄[けいちつ]。冬ごもりしていた虫が土を啓[ひら]く。草木も芽吹く。スーパーの総菜コーナーにタラの芽の天ぷらが並び始めた。山菜の王様といわれる。独特の香りとほろ苦さに春を感じる人もいるだろう。
 作家の水上勉さんの「土を喰[く]ふ日々」に「小鳥がタラの芽に集まるのを見たことがない」という記述がある。自生しているタラノキには鋭いとげがある。タラノキ自体に鳥を嫌う習性があるからとげを持つのでは、と水上さんは推察する。おかげで、人間がおいしい天ぷらにありつけるということか。
 「土を喰ふ日々」は、水上さんが軽井沢の山荘で四季の移ろいを感じながら料理をするエッセー。2022年には映画化された。ごま豆腐、あぶった小イモ、炊いたタケノコ。タラの芽は紙で包んで蒸し焼きに。主演の沢田研二さんが作る精進料理は食欲をそそる。
 映画の料理を監修したのは土井さんだ。「エビフライには下味をつけるが、天ぷらのエビにはつけない」。人為的においしさを作る西洋に対し自然そのものを受け入れるのが日本だという。季節の変化を味わい、旬をいただく。

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