テーマ : 編集部セレクト

【表層深層】広がる学び 問われる教員力 中学教科書 デジタル拡充 端末1人1台で日常化

 来春から中学生が使う教科書では、2次元コード(QRコード)の接続先のデジタル教材が大幅に充実した。1人1台のデジタル端末配備が完了し、タブレットを使った学びが日常化したことに対応した。教科書会社が工夫を凝らし、動画や音声で習熟度に合わせた指導も可能だ。子どもの学びの幅は広がりそうだが、教員の教える力量が問われることにもなる。
新たな中学教科書では2次元コード(QRコード)の掲載が増える
 2月下旬、茨城県守谷市立けやき台中の2年生の英語授業。千田照子教諭(47)が冒頭「デジタル教科書で本文を読む練習をしましょう」と呼びかけると、生徒は自分のタブレットにつないだイヤホンを、慣れた様子で装着した。
 ある男子は本文の読み上げ音声の再生スピードを遅くして何度も聞き、隣の女子は新出単語の発音を聞きながら声に出す。教室は生徒の音読の声でにぎわった。
 メリット
 デジタル教科書は2019年度に授業で正式に使えるようになった。22年度からは英語で実証事業が始まり、希望する全小中学校で使用されている。中身は紙の教科書と同一だが、英語は本文の読み上げ機能が標準装備されるなど、デジタルの特性を生かしている。
 向井田康平さん(14)は「分からないところを納得いくまで何度も確認できる」とデジタルのメリットを強調。千田教諭は「学習への苦手意識が薄れ、理解を諦める生徒が減った」と評価する。

教科書掲載のQRコードから接続するデジタル教材の検定4項目  創意工夫
 QRコードが大幅に増え、その先の動画などが充実した背景には、全小中学生へのデジタル端末配備が完了し、現場からデジタル教材充実の要望が高まったことがある。ただ、これらはあくまで教材で、教科書とは別物との扱いだ。
 文部科学省は、教科書会社から提出されたサンプルや接続先のウェブサイト画面をチェックするにとどまり、教材の中身を事細かに審査しない。①紙の教科書の内容と密接な関連がある②児童生徒に不適切な情報でない-など4項目を満たせば良く、文科省は「各社の創意工夫の部分で、最低限しか見ない」とする。
 裏を返せば、デジタル教材は自由に作ることができ、どこまで力を入れ、どんな内容にするかは各社の裁量だ。接続先のデジタル教材は教科書代に含まれ、各社にとって負担だが、質と量が採択を左右しかねないとの危機感から、対応せざるを得なかった面もある。ある教科書会社の担当者は「資金力のない会社には限界がある」と嘆いた。

 いいとこ取り
 それでも1人1台端末で一気に加速したデジタル化の流れに乗り、各社は習熟度に合わせた使い方をできるようにしたり、理科の実験手順を説明する動画などを新たに作成したりした。
 デジタル教材は無限に増やせるが、ある英語編集者は「今後は量よりも、子どもにとって本当に必要なものは何なのかを見極めることが必要」と指摘。国語の編集者は「デジタルで読むより紙で読んだ方が定着しやすいとの研究結果もある」とし、紙とデジタルの「いいとこ取り」を訴える。
 教科書や教材が変わっても「最後は教員の腕」(数学編集者)。公立中で英語を教える30代の男性教諭は「今ではデジタル教材を使うのが当たり前。それなしに授業はできない」と歓迎しつつ「全てを使うのではなく、目の前の生徒に適したものを吟味して使いたい」と意気込んだ。

いい茶0

編集部セレクトの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞