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【科学する人】「毒」にするスイッチ発見 がん光免疫療法を開発 小林久隆さん㊥

 「うまく光りません。がん細胞が死んでいってしまうんです」。米国立衛生研究所(NIH)でがんを光らせる色素を探していた部下の言葉に、小林久隆さんは「これは治療に使えるんちゃうか」と大声を上げた。

米国立衛生研究所(NIH)で実験する小林久隆さん(本人提供)
米国立衛生研究所(NIH)で実験する小林久隆さん(本人提供)

 放射線科医出身の研究者として、がんを見分ける画像診断の研究も進めていた。がんだけを光らせることができれば手術できれいに切除できる。
 光を当てた際にほかの色素はうまく光るが、ある業者から持ち込まれたIR700という色素は暗い光を出すだけで、一見すると実験は失敗だった。光る代わりに、がん細胞がぷちぷちと破裂するように壊れていく。
 がん細胞の表面にある抗原にくっつく抗体にこの色素を組み込み、がん細胞に集まったところで近赤外線を当てると、吸収した光のエネルギーで色素の形が変わり、抗原を引っこ抜く形で細胞膜に穴を開けていたことが分かった。探し求めていた「がんのところで毒にする」スイッチの発見だった。
 がん細胞を破壊するだけではなかった。破裂した細胞から内容物が放出され、これをがん抗原と認識した周辺の免疫細胞が、残ったがんや転移先のがんまで攻撃するようになる効果が動物実験で確認されたのだ。
 「がん治療で世の中を変えるんだよ」。NIHの知的財産担当者に研究の意義をこう説明した。

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