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【表層深層】中国の軟化は望み薄 日本、理解獲得へ難路

 中国が東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り損害賠償制度の創設を求めていることが判明した。中国で強固な権力基盤を築く習近平国家主席は、処理水を「核汚染水」と主張しており、態度の軟化は望み薄。日本は安全性を強調するが、中国の理解を得るには難路が続く。水産物の輸入停止措置撤廃はかすみ、政府内からは「輸出の多角化に取り組むしかない」との声が漏れる。

12日、記者会見する中国外務省の報道官=北京(共同)
12日、記者会見する中国外務省の報道官=北京(共同)


 ▼「制裁」
 「科学的根拠に基づかない規制は決して認めることはできない。政府一丸となって規制の即時撤廃を働きかける」。岸田文雄首相は11日、中国による輸入停止措置に関し福島市でこう表明した。
 日本政府は処理水を巡り、国際原子力機関(IAEA)の報告書に基づき「国際的な安全基準と合致している」として、海洋放出を続ける。
 昨年11月の日中首脳会談を受け、中国の関係部門と意思疎通を続けるものの反応は鈍い。習氏が核汚染水と発言し、中国の専門家が異なる見解を出すのは難しく、腰が引けているとの受け止めが日本側で広がる。賠償制度の要求に政府筋は「損害を与えていない。今後も問題は起きない」と突っぱねる。中国の輸入停止措置で日本の水産業への打撃は深刻だ。「中国に損害を賠償してもらいたいほどだ」とけん制する。
 2011年の福島第1原発事故を受け、中国は宮城や福島など10都県産の食品や飼料の輸入を停止。昨年8月から水産物の規制も加わった。日本外交筋は「事実上の経済制裁だ」と不満をぶちまけた。

 ▼拒否反応
 「海洋放出は安全で信頼できるという日本側の言い分は全く信用できない」。中国外務省の報道官は、12日の記者会見でこう指摘。2月に起きた福島第1原発の汚染水漏れ事故などを例示し、東電や日本政府の管理は不十分だと訴えた。
 反対姿勢を崩さない背景には、習氏が処理水問題を重視しているとの見方が浮上する。習氏の名を冠した指導思想「新時代の中国の特色ある社会主義思想」に、生態環境の保護が重要な理念として盛り込まれているためだ。
 中国は昨年、この理念を啓発するため8月15日を全国生態環境の日と定めた。処理水放出が始まったのは、その約10日後。中国外交筋は「最悪のタイミングだった」と振り返る。
 習氏は首相との会談で「全人類の健康に関わる」と、くぎを刺した。国営メディアは海洋放出の開始前から「核汚染水」反対キャンペーンを展開。中国世論には処理水への拒否反応が今も根強く残る。中国の妥協は極めて難しくなっている。

 ▼覚悟
 中国の輸入停止措置で特に打撃を受けたのは、ホタテだ。殻付きを中国で加工し米国などに仕向ける手法が崩れた。
 日本の農林水産物・食品全体の輸出額は23年、前年比2・9%増とかろうじてプラスだったが、前年の14・2%増から大きく鈍化し、輸入停止措置の影響が出た。
 北海道のある水産加工会社は23年、中国向けに約1500トンの殻付き冷凍ホタテを輸出したが、今年の輸出規模は極端に小さくなると見込む。営業担当社員は「政治的な関係で中国の禁輸は数年間解消されないと思っている」と覚悟した。
 (東京、北京共同)

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