テーマ : 編集部セレクト

【著者訪問】「成瀬は信じた道をいく」の宮島未奈さん(富士市出身) 目が離せない 底知れなさ

 琵琶湖に面する大津市を舞台に、型破りな発想と行動力を併せ持つ少女が躍動する「成瀬は信じた道をいく」。本屋大賞にもノミネートされ話題となった宮島未奈さん(富士市出身)のデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」の続編だ。

宮島未奈さん
宮島未奈さん

 前作は「200歳まで生きる」と公言する主人公・成瀬あかりの中学、高校時代を描き、今作では京大生になった成瀬が活躍の場を広げる。「執筆は毎日苦しいのに、生み出された物語のトーンが全く違うのが自分でも不思議」と宮島さん。
 成瀬は成績優秀でやりたいことにまい進し、他人の目を気にしない。幼なじみと漫才コンテスト「M-1」に出場したかと思えば、髪の伸びる速度を確かめるため高校の入学式に丸刈りで登校し、周囲を驚かせる。
 危なげなく京大に現役合格した彼女は、地元スーパーでアルバイトを始める。満を持して選ばれた「びわ湖大津観光大使」として精力的に活動するも、「探さないでください」と書き置きを残して、大みそかに姿を消す。
 成瀬に「弟子入り」した小学生や、クレーマー主婦らの視点で描いた連作短編集。読み進むうち、成瀬の底知れなさに目が離せなくなる。「天才肌だけど、成瀬には人の意見を聞き入れる柔軟さもある」。次回作は舞台を京都に移す考えで、「『前期3部作』として一区切りにしたいが、長いシリーズになるはず」と胸の内を明かす。
 子どもの頃から大好きな少年漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」の影響も挙げ、「周囲を自分の世界に巻き込むけど、最後に肯定される点はこち亀の主人公、両津勘吉と成瀬は似ているかな」。
 結婚を機に暮らし始めた大津市の地元情報を紹介するブログを続ける。「やめ時を見失っている」と苦笑しつつ、「庶民的と言われるが私は普通の主婦。そのマインドは変わらない」。ぶれない姿勢の向こうに、成瀬の背中が見えた気がした。
 (「成瀬は信じた道をいく」は新潮社・1760円)

 みやじま・みな 1983年、富士市出身。京大卒業後、2009年から大津市在住。21年「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR-18文学賞」を受賞し、23年に同作収録の「成瀬は天下を取りにいく」でデビュー。

いい茶0

編集部セレクトの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞