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和菓子屋跡にパン屋 沼津「いせや本店」 店名継承、おいしさ届ける思いは変わらず

 大正時代から100年近く親しまれ、惜しまれながら閉店した沼津市幸町の和菓子店「いせや本店」の跡にパン屋がオープンして1年半が経過した。店主は「にぎやかだった場所をもう一度復活させたい」と店名を引き継ぎ、こだわりのパンを販売する。その思いに心を打たれ、商品PRを買って出る和菓子店元従業員がいる。

和菓子店の店舗と店名を受け継ぎ、パン屋を経営する渡辺裕美さん(左)=7月上旬、沼津市幸町
和菓子店の店舗と店名を受け継ぎ、パン屋を経営する渡辺裕美さん(左)=7月上旬、沼津市幸町

 趣味でパン作りを始め、伊豆の国市の自宅で知人に販売していた渡辺裕美さん(45)が、2021年11月にオープンした。1週間かけて起こした酵母とフランスパン専用の粉、富士山の湧水、沼津市戸田地区の塩を混ぜて60時間発酵した「サワードウブレッド」が評判だ。
 1924(大正13)年に創業した和菓子店は、沼津が舞台の歌舞伎にちなんだ平作最中(もなか)などが人気を集めたが、2020年3月に閉業。渡辺さんは小学生のころ、母親に連れられて和菓子店に足を運んだ。当時の経営者の娘と同級生だった。開業を考えていたわけではなかったが、店が売りに出されたと知って強い縁を感じ、オープンを決めた。
 リノベーションした店内には和菓子店の趣が残る。「御菓子司いせや本店」の看板がかかり、商品ケースや商品を運ぶ容器「ばんじゅう」もそのまま使う。和菓子店閉店を知らずに訪れ、常連になった客もいる。渡辺さんは「歴史を受け継ぐのは荷が重いが、守り続けたい。まずは近所の方に喜んでもらい、地域に根付いた店にしたい」と決意を新たにする。
 和菓子店創業者の三女で、約30年間店頭に立った渡辺郁子さん(79)は生まれ変わった「いせや本店」に客が詰めかける様子に目を細める。「家族が守ってきたお店。シャッターが下りているよりもうれしい」。自身が経営する喫茶店でパンを紹介するなどPRに奔走する。願いは一つ。「父が作ったお菓子のように長く愛されてほしい」。
 

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